[原子力産業新聞] 2003年12月4日 第2213号 <3面>

[米国] 水素製造で高温ガス炉計画

 紅葉の残る米首都ワシントンに20日、14か国の大臣級代表と専門家が集まり、「水素経済に向けた国際パートナーシップ(IPHE)」設立に関わる取り決めに調印、大型の水素エネルギー国際協力がスタートした。

 エイブラハム米エネルギー省(DOE)長官は、IPHE設立大会の開会演説で「米国は今後5年間で、17億ドル(1900億円)を長期の水素エネルギー技術開発のための最初の資金として投資する」と述べ「2020年に水素経済・社会の実現を目指す」との意気込みを述べた。これはブッシュ大統領が今年1月28日の一般教書演説で、「今日は生まれた子供が成人したときに水素自動車を自由に使えて、汚染のない世界を実現することを約束する。そのため12億ドルの研究費増額を約束する」としたことを具体化させるもの。EUも20億ユーロ(2600億円)を水素と再生可能エネルギーの開発に投入することを約束している。IPHEは水素社会の実現を世界的規模で強い国際協力により実現しようとするものだ。

 今回取り決めに調印したのは、米国を始め、オーストラリア、ブラジル、中国、EU、フランス、ドイツ、アイスランド、インド、イタリア、日本、ノルウェー、韓国、ロシア、英国など14か国・地域。この取り決めは法的な拘束力を持たないが、各国の協力へのコミットメントを約束するもの。

 IPHEは米国のリーダーシップが明確であり、協力の事務局はDOEが担当。協力実施のため、運営委員会と実施・調整委員会の2委員会を設置する。日本は運営委員会の副議長国となった。

 初日の大臣級政府代表演説の中で、フランス、米国、英国が原子力の水素製造への利用の必要性を述べ、EUとフランスは核融合エネルギーの利用にも言及した。

 DOEのマグウッド原子力局長は、筆者との懇談で、高温ガス炉を用いた水素製造試験研究を行うため、2004年にアイダホ原子力研究所(INL)を設立することを明らかにした。INLには、熱出力100MWの高温ガス炉を建設、世界最高の1000℃の核熱の取り出しを目指す。運転開始は約10年後を計画しており、炉設計等については、今後2〜3年かけて検討する。熱と発電のコジェネを考えている。触媒を用いて熱で水を高温で分解し水素を製造する方法と、発電した電気で水を電気分解して水素を作る施設を併設する。

 今回IPHEでは、水素の具体的な製造法を討議していないが、二酸化炭素を発生せずに水素を製造することが環境上必要であり、そのため原子力が最適であることが、ワシントンポスト紙にも掲載されるなど、一般にも理解され始めた。マグウッド局長は、日本原子力研究所が開発しているIS法にも期待しており、今後、原子力による水素製造や高温ガス炉で、日本と協力したいと述べている。

(町末男・原産常務理事)

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