[原子力産業新聞] 2003年12月18日 第2215号 <4面>

2003年回顧 将来の姿、見える

 2003年は原子力界にとって、将来の方向性が見えてきた年であったといえよう。従来の「日本式資本主義」の諸制度が、今日揺らぎ、見直されつつあるが、電気事業と原子力産業界もその例外ではなかった。

 小売り電力の60%強が自由化される期限が2005年に迫り、卸電力取引市場など制度の整備が進むなか、電力業界は、新たな経営環境の中で生きのびる道を模索しはじめた。これに伴い、原子力発電と核燃料サイクルのあり方も、否応なしに問い直されることになった。これを象徴的に示したのが、珠洲原子力発電所の「凍結」申し入れである。電力会社が経済的・経営的判断で新規立地を断念するのは初めてのことだ。

 今年10月にまとめられたエネルギー基本計画には、従来の原子力政策からは異例とも言える内容が盛り込まれた。1つは核バックエンドに対する政府の「経済的措置」の早急な検討であり、第2はバックエンドサイクルに関する長期的観点からの「柔軟な政策」である。

 第1の「経済的措置」は、核燃料サイクル事業に対する国からの財政的支援または必要な保証を示唆しており、従来の民間事業としての原子力発電やサイクル事業とは、ある意味で一線を画すもの。バックエンド事業は、民間企業が通常想定するタイムスパンを超えた超長期事業であり、政府関与のあり方の見直しが必要であろう。例えば米国においても、使用済み燃料の処分は、電力会社からの拠出を得て、連邦政府が責任を持って行うことになっている。

 この「経済的措置」のベースを検討するために、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会のもとに作られた「コスト等検討小委員会」では、電気事業者が、現時点で想定されるバックエンドの様々な要素のコストを、その根拠とともに公開の席で明らかにした。経済性を含めたバックエンド政策が透明かつオープンな環境で議論されるようになったことは、歓迎できる。

 第2点の「柔軟なバックエンド政策」は、中間貯蔵を併用し必ずしも「全量再処理にこだわらないオプション」を意味するとされるが、そうならば従来のバックエンド政策から大きく踏み出すものだ。実際、「コスト等検討小委員会」に電事連が提出したバックエンドコストは、2046年までに発生する全使用済み燃料7万トンのうち、3.2万トンのみを再処理、残りの3.8万トンを「中間貯蔵」との前提で計算されている。

 一方、日本原子力産業会議も、原子力発電所の長寿命化をにらみ、原子力技術・経験の伝承方法と、発電所補修等のあり方や人材確保に関する提言をまとめた。また、日本の原子力産業の業績改善と構造改革へ向け、原子力関係団体のあり方を抜本的に見直すため、12月に「原子力産業界団体の在り方を考える委員会」を発足、原子力産業界の主要ステークホールダーとともに検討を開始した。

米国では新規立地への動き

 米国の原子力産業界にとって、今年は、新規原子力発電所建設への動きが出てきた記念すべき年となった。今年9、10月には、エネルギー省(DOE)の支援のもと、米大手電力3社が米原子力規制委員会(NRC)に早期サイト立地許可申請を提出、NRCでの審査が始まった。これが認められれば、この3社は新規原子力発電所が必要となったとき、最も時間のかかる立地許可プロセスをバイパスして建設に移ることができる。

 米国ではまた、既存原子力発電所の運転が好調であり、今年1月〜11月の設備利用率は86%であった。また、NRCから12月上旬までに23基の原子力発電所が20年間の運転延長認可(合計60年間)を得ており、16基がNRCで審査中。最終的には米国で運転中の原子力発電所のほとんどが、運転認可延長を申請するという。これは、運転中の原子力発電所が経済的に競争力を持ち、電力会社にとって貴重な経営資源であることの証左である。このような米原子力産業界の動きには、産業界の拠点として、米原子力エネルギー協会(NEI)が深く関与していることに注目すべきであろう。

 米国における将来の原子力開発構想については、DOEが今年1月、新たな再処理方式の開発を含む、「先進核燃料サイクル構想(AFCI)」を発表した。これに対してマサチューセッツ工科大学(MIT)は、8月、ワンススルー方式に主力を置きつつも、2050年までに世界の原子力発電容量を10億キロワットへ、現在の約3倍に増強する報告書「原子力の将来」を発表した。MIT報告は、民主党寄りの学者と元政府高官が中心となり取りまとめたことから、将来、民主党政権が誕生した場合、原子力政策の基礎となるとも考えられる。来年11月の米大統領選挙と、その後の政権構想をにらんで、共和党、民主党双方の原子力政策が出そろった。


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