[原子力産業新聞] 2004年1月15日 第2218号 <4面>

[原子力委員会] 2003年度原子力白書から A

 先週号に引き続き、原子力委員会が昨年12月19日に発表した2003年度版原子力白書の概要版から、「研究開発」、「原子力を巡る国際情勢」、「原子力政策の評価」、「これからの原子力政策と原子力委員会」の各章を紹介する。


革新的な技術確立目指した原子力研究開発 ITER計画

 1996年12月に原子力委員会はITER計画懇談会を設置し、我が国における今後のITER計画の進め方について検討を行い、2001年5月に報告書をとりまとめた。これを踏まえ、同年6月に原子力委員会はITERの我が国への誘致を念頭において、検討結果や検討状況も勘案して必要な判断を行うとの決定を行った。

 総合科学技術会議においては、2001年6月より我が国のITER計画への参加、誘致の意義、経費負担等について、原子力委員会での検討結果を踏まえつつ、科学技術政策上の観点から検討を行った。その結果2002年5月に、ITER計画について政府全体で推進するとともに、国内誘致を視野に、政府において最適なサイト候補地を選定し政府間協議に臨むこと、参加極間の経費分担については経済規模を反映したものとすべきとの結論をまとめた。さらに同月、青森県上北郡六ヶ所村を国内候補地として提示して政府間協議に臨むことを閣議了解した。今後は、サイト決定に向けた参加極間の協議を終え、さらにITER共同実施協定案等に関する技術的な検討を進め、早ければ2004年度にもITER建設のための国際機関の設立を目指している。

革新的原子力システム

 将来のエネルギー需要や社会的ニーズを満たすため、世界各国で革新的な原子炉及び核燃料サイクル技術(革新的原子力システム)の研究開発が進められている。その研究開発に当たっては、一国のみで開発を進めるよりは、人的・資源的に国際分担を行い、成果を共有する考え方が広まっている。現在、国際的な革新的原子力システム開発としては、第四世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)と革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO)の二つがある。

 我が国においては、民間、大学、国の研究機関で様々な革新的原子力システムの研究開発が進められており、文部科学省及び経済産業省においても、公募型研究制度を実施している。

 原子力委員会は、革新的原子力システムの研究開発のあり方を検討するため、原子力委員会研究開発専門部会の下に革新炉検討会を開催し、今後開発する意義のある革新的原子力システムの概念をまとめるとともに、研究開発に当たっての重要なポイントをまとめた報告書を作成した。

新原子力法人の設立

 日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構は、2001年12月、行政改革の一環として「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、両法人は「廃止した上で統合し、新たに独立行政法人を設置する方向で、2004年度までに法案を提出する」とされた。

 原子力委員会は、2002年4月に「日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の廃止・統合と独立行政法人化に向けての基本的な考え方」を決定し、新法人が原子力研究開発において中核的な役割を担っていくことが必要であるとともに、先進性、一体性及び総合性を備えた研究開発機関として引き続きその役割を果たしていくことが重要であるとした。

 文部科学省は、2002年1月に原子力二法人統合準備会議を設置し、様々な角度から議論を重ねた。その結果、2003年9月に「原子力二法人の統合に関する報告書」をとりまとめ、基本認識、設立の基本理念、使命、新法人の業務とその推進の方向、組織、運営の在り方等を示した。

国際的枠組みでの研究開発

 原子力エネルギーの研究開発は、一般的に大型の装置が必要であることから多額の研究開発経費を必要とし、またプロジェクトは長期間にわたるものであり、ITER計画など研究開発における国際的な枠組みが構築されつつある。我が国としては、国際的な活動と連携して研究開発を進めていくことが重要である。

 国際協力によって研究開発を行っていく場合には、投資に見合う成果を得るためにも、研究開発や実用化において主導権を発揮することが求められる。そのためには、国際共同プロジェクトを、当該分野において我が国が有する科学技術能力によって支援していくため、国内の研究開発活動が、国際共同プロジェクトと緊密に連携して進められていくことが重要である。

原子力を巡る国際情勢

 米国

 2001年5月、ブッシュ大統領は国家エネルギー政策を発表した。原子力については、エネルギー安全保障、温室効果ガス削減の観点から重要な役割が与えられており、原子力推進に対する政府の強い姿勢を示している。また、高レベル放射性廃棄物の処分場をネバダ州ユッカマウンテンに建設することが、2002年7月に決定された。

 欧州

 西欧については、原子力発電に積極的な国がある一方で、原子力発電の段階的廃止を決定している国もあり、各国の態度にはばらつきが見られる。2002年6月に欧州委員会は、「欧州のエネルギー供給安全保障戦略」に関する最終報告書をとりまとめた。この中で、供給の確保及び温室効果ガス排出削減の観点から、原子力をエネルギー源の選択肢の一つとして考慮すべきであるとしている。最近では、2002年1月にフィンランド政府が新たな原子力発電所の建設を決定し、5月には議会承認されるなど、最近は原子力の推進に向けた動きが見られる。

 ロシアでは原子力産業は外貨獲得の旗手として捉えられており、海外ビジネスの展開に力を注いでいる。ウラン濃縮とウラン燃料の国外発電所への輸出や、中国、イラン、インドへの原子力発電所の建設協力を現在行っている。

 アジア・中東諸国

 韓国は、原子力産業の育成・振興の観点から韓国標準型炉の推進を打ち出しており、これに加えて140万キロワット級の次世代型PWRの開発にも取り組んでいる。こうした取り組みにより国内向けばかりでなく、設備や技術の輸出、更に長期的にはプラント単位の輸出をも志向している。一方、放射性廃棄物の管理については、処分場や中間貯蔵施設の候補地選定が今後の課題となっている。

 中国の第十次五カ年計画では、原子力発電について具体的な数値は盛り込まれず「原子力発電を適度に発展させる。」とのみ記されている。しかし、今夏の熱波の影響もあり、電力供給がかなり逼迫した状況にあったことから、国務院は四基の原子力発電プラントの建設を仮承認した。

 核不拡散

 原子力の平和利用を円滑に実施していくため、核不拡散体制の維持は、安全確保とともに極めて重要であり、核兵器不拡散条約(NPT)や、それに基づくIAEAとの保障措置協定、包括的核実験禁止条約(CTBT)等、種々の国際的枠組みが創設されてきた。

 イラクや北朝鮮の核疑惑を契機に、IAEA保障措置強化の検討が行われ、その結果としてIAEA追加議定書が提示されている。我が国は、追加議定書をいち早く締結するとともに、2000年のIAEA総会においてより多くの国の追加議定書締結を促進するための行動計画を提案した。2002年12月には、IAEAと協力し「IAEA保障措置強化のための国際会議」を開催し、追加議定書の普遍化に務めている。

 なお、北朝鮮では、1994年の米朝間の合意された枠組み合意後も核兵器開発計画を有していると2002年10月に指摘されて革り、我が国を含めた各国から目に見える形での開発の停止等が求められている。原子力委員会は、この問題を深刻なものと受け止めており、北朝鮮が速やかにIAEAによる査察を受け入れ、早急に核兵器開発を停止することを強く求める旨の声明を出した。

 米露の解体核プルトニウム処分問題については、1996年4月のモスクワサミットにおいて問題の重要性が指摘されて以来、G8を中心に検討が進められている。また、我が国においては、核燃料サイクル開発機構がロシアとの間で、ロシアの余剰プルトニウムからMOX燃料を製造し、これをロシアの高速炉BN−600により燃焼させるための研究協力を実施している。我が国は、この技術が利用されることによって、ロシアの余剰プルトニウムが早期に処分されることを希望している。

 冷戦構造の終結により退役した極東ロシアの原子力潜水艦の解体についても、我が国とロシアで協力事業を進めることとしており、まずヴィクターV級原子力潜水艦一隻の解体事業の実施取り決めが締結され、関連する契約が成立している。


原子力政策の評価

 原子力政策が国民の期待に応えるものとするためには、政策の実施段階でその効果を評価し、必要に応じて事業の改善、見直し及び中断を行っていくことが重要である。そのため、原子力委員会は、総合企画・評価部会において、原子力の基本政策である原子力長期計画の実施状況の把握及び原子力政策全般に関する事前・事後の評価を行うこととしている。

また、原子力委員会における評価とともに、各府省においても行政機関が行う政策の評価に関する法律に基づき政策評価を実施している。

原子力関係予算と研究開発の重点化

 原子力委員会は、原子力関係の施策の必要性や期待される成果・これまでの成果、原子力長期計画との対応等について関係行政機関から聴取した上で、原子力長期計画において示す原子力研究開発利用の基本理念や基本政策に則っているかどうか、それらの具体化に向けた取組がなされているかどうか、昨今の厳しい財政事情の下で重点化・合理化・効率化が図られているかどうか評価することとしている。原子力委員会は、この観点から、2004年度原子力関係経費の見積りを取りまとめている。 なお、2004年度概算要求について科学技術関係施策の優先順位(SABC)付け等を行い、原子力研究開発もそれに含まれている。


これからの原子力政策と原子力委員会

 ここ5年の原子力を巡る動きを振り返ると、JCO事故や原子力発電所の検査・点検等の不正問題といった一連の出来事が、原子力に対する国民の信頼感を大きく損ね、原子力政策の遂行に深刻な影響を与えることとなった。

 また、現状においてプルサーマル計画の実施や「もんじゅ」の改造工事については、立地地域を始めとする国民の十分な理解を得た上で進める必要があり、計画通りには進んでいない。

 原子力委員会としては、このような原子力を巡る厳しい情勢を重大なものと認識しつつも、エネルギー安全保障及び環境適合性への役割から考えて、原子力発電を我が国の基幹電源とするととともに、使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用する核燃料サイクルを確立することは、我が国の原子力政策の基本として引き続き推進していくべきものと考える。

 このような認識の下で、核燃料サイクルを円滑に推進するには、原子力に対する国民の不信の解消と、地域の考えと国の原子力政策との調和が重要であると考える。

 国民の信頼回復を目指して、原子力関係者がJCO事故などを契機に、原子力の安全・安心の向上を目指した様々な制度改善を行っているが、現在道半ばである。

 原子力政策に対する信頼を回復するためには、引き続き適切な政策の提示と説明責任を果たすことにより、国民の幅広い理解を得ていくことが重要である。その際、どのような課題を解決するために国はどのような政策を実施するのか、この課題に対する国民の考えはどうなのかといった点について、客観的なデータに基づいた双方向のコミュニケーションを通じて政策合意を図っていくことが重要である。これまでは、国が示す政策は難解であり、国民の疑問に明快に答えるものとはなっていなかったことから、一過性の情報発信となる傾向があった。一方、原子力政策を批判する者も、国が解決すべき課題に対する問題意識を踏まえたものではないものもあり、双方の議論がかみ合わないこともあった。

 国民の疑問に答えることは、原子力委員会と国民との双方向のコミュニケーションの第一歩であり、引き続いて、原子力委員会と国民が直接意見交換を行っていくことが、双方向のコミュニケーション確立のための一つのあり方であると考える。さらに、原子力委員会は、原子力を巡る課題に対する国民の考えを伺う「広聴」を実施することも、国民との相互理解のために重要であると認識している。このようなアプローチは、核燃料サイクルだけではなく、原子力政策全般に関して有意義であると考えており、他の原子力分野においても同様の考え方で取り組むことにより、国民が納得する政策を提示していきたい。

 電力自由化の進展や、原子力二法人統合、核燃料サイクルの遅れ、米国などを中心とした原子力発電の拡大へ向けた動きなど、原子力の取り巻く情勢は、現行の原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画を策定した、2000年11月の時点とは変化してきている。そのため、新たな原子力長期計画の策定のための検討を今後行うこととする。


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