[原子力産業新聞] 2004年2月5日 第2221号 <3面>

[北朝鮮訪問] 金属プルトニウム確認

 1月初旬に北朝鮮の寧辺原子力施設を訪問したS.ヘッカー元ロスアラモス研究所長は、21日、米上院外交委員会の公聴会で証言、寧辺の電気出力5MWの実験炉が順調に運転を続けていたこと、使用済み燃料プールにあった8000本の使用済み燃料は撤去され、北朝鮮側は再処理を終えたとしていること、酸化プルトニウムと金属プルトニウムのサンプルを見せられたことなどを明らかにした。

 ヘッカー氏は冶金学の専門家で、冶金学の博士号を取得後、1973年にロスアラモス研究所に入り、1986〜97年には所長を務めた。ヘッカー氏は今回、団長のW・ルウィス・スタンフォード大教授の求めで、核技術専門家として訪問団に加わり、プリチャード元朝鮮半島和平協議担当特使ら5名と、北朝鮮側の招きで寧辺や平壌を訪問したもの。

 一行は1月8日、米中朝協議で代表等を務めた李根大使(外務省米州副局長)を伴い、平壌の北方約100キロメートルにある寧辺原子力科学研究所を訪問した。北朝鮮側の説明では、5MW炉は2003年2月の再起動以来、100%出力で運転しており、町に電気と熱を供給している。ヘッカー氏は制御板の表示や冷却塔からの水蒸気で、原子炉の稼働を確認、同原子炉で年間6キログラムのプルトニウムが生産されるとしている。

 一方、94年に建設が中断された電気出力50MW炉の工事は止まったままで、保存状態もひどく、近く完成できる状況にはない。北朝鮮側は200MW炉も同様の状況と説明している。

 北朝鮮側は、寧辺のプールにあった使用済み燃料8000本を運び出し、2003年1月中旬から6月末までに全量再処理したと説明。ヘッカー氏もプールには使用済み燃料が存在しないことを確認した。

 一行は寧辺の再処理施設「放射化学研究所」も訪問、同施設が、年間110トンウランを再処理できるとの説明を受け、標準的なPUREX法を用いた「産業規模の再処理施設」であることを確認。使用済み燃料8000本(約50トン)の再処理を終えたため、現在は稼働していないという。米国側は、再処理により25〜30キログラムのプルトニウムが抽出されたと推定している。

 北朝鮮側は、同施設で抽出したプルトニウムを、現在、金属の形態で保有としており、ヘッカー氏は、ガラス容器に入れられた約150グラムの酸化プルトニウム粉末と、200グラムのプルトニウム金属を示された。ガイガーカウンターでの計測と、比重や色、また、これらがほの暖かかったことなどから、プルトニウムと断定。金属形態のものは、比重が15〜16グラム/立方センチメートルで、約1%のガリウムかアルミニウムを混ぜた合金と見ている。

 北朝鮮がプルトニウムの抽出を「抑止力」としていることに対して、ヘッカー氏は抑止力形成のためには、@プルトニウム金属の生産能力A核爆発装置の設計・製造能力B運搬手段の確保――の3条件が最低必要と指摘、さらに、米国と北朝鮮の間には「核の抑止力」の概念自体が成立し得ないと述べた。

 今回の核危機の発端となった高濃縮ウラン計画について、北朝鮮側は訪問団に否定する姿勢を貫き、一行と会談した金永日・外務次官は、「北朝鮮には高濃縮ウラン計画は存在しない」と述べ、この件について技術的な議論を行う用意があるとした。


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