[原子力産業新聞] 2004年2月26日 第2224号 <3面>

[シリーズ] スペイン 原子力の今(2)

 スペイン国民の原子力発電への態度は―。S・サンアントニオ・スペイン原子力産業会議事務局長と、E・V・ラフロール・アスコ・バンデリョスU原子力発電所運転員から話を聞いた。(喜多智彦記者)

―スペイン国民の原子力の受け止め方は。

ラフロール運転員 コローニャ大学世論調査所の調査では、「原子力は危険」と考える人が96%、「原子力発電は不要」が44%、「原子力発電廃止を支持」が28%という厳しい状況だ。

サンアントニオ事務局長 調査の質問方法にも問題があるとは思う。「原子力は危険と思うか」と聞かれれば、「イエス」と言うだろう。

 世論はこの調査ほど厳しくはないと思うが、政治やビジネスのリーダーたちが、原子力に関して何も声を上げようとしないのが問題だ。それは、原子力が「政治的に正しくない」とリーダーたちが思っているからだ。たとえば、ある電力会社は、収益の50%を原子力発電から得ているにもかかわらず、この会社の最高経営責任者(CEO)は、再生可能エネルギーや天然ガスについては語るが、原子力については話そうとしない。原子力発電は資本集約型だが、資本費の回収に25〜3十年もかかり、経営者は誰もこのリスクをとりたくないというのが本音だ。

― 原子力を巡るスペインの政治情勢について。

サンアントニオ事務局長 国会の総選挙が3月に迫っているが、選挙のたびに「原子力発電フェーズアウト」の主張が出てくる。昨年10月に行われたカタロニア地方の選挙では、二つの党が原子力発電所を止める主張をし、別の1つの党と連立を組むさいに「徐々に原子力から撤退し、再生可能エネルギーを増やす」ことで合意した。

 3月の総選挙で、社会党は原子力発電フェーズアウトを主張しているが、おもしろいことに、国の主なメディアは、「不可能であり、よい考えではない」と反対を唱えている。つまり、ジャーナリストの方がよく状況を理解しているということだ。これには、スペイン原産がジャーナリストを対象としたコースを主催したり、原子力に関するジャーナリストのトレーニングを行っていることも影響していると考える。人々の意見は新聞の主張に大きく左右されるが、メディアは社会党の主張に反対ということだ。スペイン原産としても、総選挙が終わったあと、原子力に関する世論調査を行う予定だ。

―CO2を排出しないエネルギー源としての原子力を人々は理解していますか。サンアントニオ事務局長 京都議定書について、スペインは1九九0年レベルからマイナス15%という大幅なコミットメントをしているが、現在でもすでに、90年レベルからプラス35%という状況だ。CO2削減での原子力の役割に関する論争がテレビで行われるなど、原子力への興味も出てきており、原子力発電所の増設なしには、マイナス15%達成は無理との意見も出てきている。

 スペイン原産は事務局スタッフ10名程度の小世帯だが、電力会社などが全面的にバックアップし、合計で100名程度の戦力。全国規模での原子力キャンペーンは、スペイン原産が一手に行っている。(終わり)


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