[原子力産業新聞] 2004年3月11日 第2226号 <4面>

[原産] 向こう10年間に何をすべきか2

原子力発電 原燃サイクル 取り巻く環境の変化

(1)社会的信頼の低下

原子力界における度重なる不祥事は、原子力に対する社会の信頼を当事者自らが低下させ、計画を遅延させてきたこととして痛恨の極みである。原子力開発利用の当事者は、確固たる決意をもって、法令や保安規定などを誠実に遵守することなど保安活動に万全を期すとともに、情報公開や情報提供により透明性の確保と説明責任を着実に果たし、社会の理解と信頼を高めていかねばならない。

(2)安全規制・検査制度の見直しと自主保安体制の徹底

原子力が引き続き基幹電源としての役割を果たしていくため、事業者は、品質保証、品質管理をはじめとする保安活動をトップマネージメントとして実施することなど自主保安の更なる徹底と規制の適正化により安全確保の実効性を高めつつ、設備利用率を改善し、競争力を確保することが急務となっている。

(3)エネルギー・電力需要の伸びの鈍化

我が国の社会は物質的な成熟化段階に入り、我が国産業の発展は量的な拡大から質的な向上へと流れが変わり始めた。また社会の高齢化と少子化が急速に進んでおり、2006年頃より我が国の人口は減少に転じると予測されている。

この結果、今後のエネルギー需要は、年率1%前後かそれ以下の低成長で推移していくものと思われる。このため、原子力発電所の新規計画は当面は年に1基の建設ができる程度であると考えられる。

(4)電力市場自由化の進展

世界的な電力市場自由化の流れの中で、我が国においても電力小売市場の自由化範囲が順次拡大される予定である。原子力や水力などの長期固定電源に対しては、市場からは長期性ゆえに不確定性のリスクが高いと見なされて、新規投資が行われにくくなり、中長期的にみた我が国のエネルギー安定供給確保が損なわれはしないかとの懸念がある。特に原子力の場合、バックエンド事業については超長期に取り組まざるを得ない課題である。このため原子力と自由化の両立を図る条件整備が必要である。

(5)原子力研究開発予算の減少

我が国の原子力研究開発の一般会計予算は近年漸減傾向にある。総合科学技術会議は、研究開発を推進すべき8分野を選定し、その中の4分野に対し特に予算を重点配分することとしている。しかし、原子力を含むエネルギー分野は重点4分野からは漏れ、研究開発を5か年計画で考えるため、エネルギーの研究開発のような長期的な開発課題は予算が削られがちであり、長期的課題への予算上の配慮が必要である。

(6)原子力研究開発2法人の統合

日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合で、原子力に関する我が国唯一の総合的研究開発機関が誕生することとなる。

新法人の研究開発は、成果が円滑な産業化につなげられるよう、実用化段階までを含め一貫して関与することが望まれる。

(7)放射性廃棄物の処分、廃止措置

放射性廃棄物の処分や原子力施設の廃止措置は、着実に進めていくことが極めて重要である。

(8)国際環境の変化

近隣アジア諸国は経済成長を続け、エネルギー需要も急速に拡大している。近隣アジア諸国にはベトナムのように新たに原子力発電を導入しようとする国や、中国やインドのような意欲的な原子力開発計画を持つ国があり、安全確保や核不拡散の観点から原子力先進国の我が国として貢献していくことが必要である。

米国を中心に2030年ごろの技術確立を目指した第4世代炉の研究開発に共同して取り組んでおり、我が国としても積極的に参画することが必要である。

(9)水素エネルギー社会に向けて

エネルギーの安定供給確保や地球環境問題への対応として、ガソリンなどの燃料の代替として水素を利用する新しいエネルギーシステムが考えられ、水素エネルギーシステム、あるいは水素経済と呼ばれている。石油や天然ガスの枯渇に備え、太陽光など再生可能エネルギーや原子力が水素生産に利用されることが想定される。この水素の生産に原子力が貢献することは、水素エネルギー利用の持つエネルギー安定供給確保や地球環境問題への対応の観点から重要である。


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