[原子力産業新聞] 2004年4月30日 第2233号 <5面>

 大会2日目のセッション2は、「長期展望に立って向こう10年に何をすべきか」をテーマに、秋元勇巳3菱マテリアル相談役を議長に迎えてパネル形式で行われた。事故や故障、不祥事により社会からの信頼が低下し、また電力自由化の拡大など、厳しさを増すわが国の原子力界において、原子力関係者は開発の原点に立ち返り、原子力が本来果たすべき役割を目標に掲げ、当面する諸課題を関係者の協力の下、着実に解決していくことが求められている。セッション2ではまず、原産会議がこれまで検討してきた「原子力開発の長期的ビジョンおよび今後10年間になすべき課題」について、宅間正夫・同会議専務理事が報告を行った後、飯田浩史・産経新聞論説委員、河原ワ・日立製作所常務電力・電機グループ技師長、岸田哲二・関西電力副社長、笹岡好和・全国電力関連産業労働組合総連合会長、佐々木宣彦・経済産業省原子力安全・保安院長、C・タガー米国エネルギー省(NEI)副理事長、N・ディアス米国原子力規制委員会(NRC)委員長、宮健3・慶應義塾大学教授らパネリストが、それぞれ講演を行う形で進められた。

第1部 原産報告「安全で社会に貢献する原子力を目指して」

 

宅間氏 わが国の原子力発電は現在、全電力の30%強をまかなう「国民の財」と呼ぶに相応しいエネルギー源に成長した。ところが世界のトップレベルになった途端、それまでの改善意欲が保守的な現状維持という内向きな姿勢に急速に転じてしまい、原子力界が全体的に改革を嫌い、重要な問題の先送り体質に陥ってしまった。

 原子力界の低迷を直視しつつ、中長期的視野で原子力が真に社会に貢献出来るためにはどうすればよいかという問題意識から、原産会議では検討を行い、「向こう10年間に何をすべきか」という提言の形にしてとりまとめた。

(同提言について、技術の維持・伝承、社会との相互理解と信頼、安全確保への原子力産業界の責任、原子燃料サイクル・プルトニウム利用に関する提言、放射性廃棄物対策の推進、原子力の研究開発と水素エネルギー社会に向けて、原子力産業の活性化・国際展開の各項目別に、提言を紹介)

 「混迷したときには原点に戻れ」と言われる。私は今から約50年前に制定されたわが国の原子力基本法の精神に今、立ち戻ることが必要と思う。


第2部 各パネリストの意見から

タガー氏 (良い規制を作るには、推進側と規制側の)良い協力関係が必要で、規制当局が単独で成立させるものではない。「より良い規制が必要」との認識が、NEI、NRC双方にあり、作るのは容易ではなかったが、(現在の米国における原子力関連規制は)多くのことが複合的にかみ合い、合理的な規制となっている。

ディアス氏 1960年代をベースとした安全プログラムを、2004年に持ってきても仕方がない。

 大切なことは「何が大切かを理解すること」であり、これがより良い規制と、より良い運転に繋がる。

 現在のNRCの規制は、60年代から努力を続けた結果、こういった事を取り込むことが出来たものとなっている。

佐々木氏 原子力安全・保安院は2002年度に明らかとなった、原子力発電所における一連の不正問題を踏まえた電事法および原子炉等規制法の改正を通じ、原子力安全規制を抜本的に見直した。

 保安院としては、まずは現在の新しい安全規制の定着化を通じて規制の実効性を高め、規制の信頼性を向上すべく努力を重ねていく所存だ。また同時に、常に最新の科学技術水準を意識しつつ、原子力安全確保体制をより望ましいものにすべく不断の検討を行っていきたい。

河原氏 (近年の状況から)メーカーとしては、今後の10年間が非常に大事な時期になると認識している。

 わが国で環境と調和しつつ、長期にわたり安定的にエネルギー供給をし続けるためには、原子力に関する技術を維持発展させることが不可欠で、アジアにおける原子力貢献も、日本として重要な責務。

 そのため原子力技術者のモラルの維持、原子力施設の安全性・信頼性の確保などへの取り組みに加え、大学、新統合法人、電気事業者、メーカー、原子力専門機器メーカーなど全てを含めた、日本としての総合的な原子力推進政策の策定が不可欠だ。

笹岡氏 労働組合の組織化こそが、一体化して日本の原子力を産み育てることに繋がると考える。また電力会社毎に異なる、原子力産業に働く労働者の「統一技術・技能評価基準の策定」による技術・技能の継承と教育訓練の体系化が急務と考えている。

 従来以上に、労働組合自ら「原子力発電の必要性」を訴え、学校教育の場においてボランティアとしてのPAが出来るよう、あらゆる機会を通じて意見提言を行っていきたい。


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