[原子力産業新聞] 2004年4月30日 第2233号 <5面>

[原産] 年次大会セッション3 「原子力工学教育と技術基盤の構築」

 「変貌する原子力工学教育と技術基盤の構築」をテーマに実施されたセッション3では、国内外の原子力工学教育の現状と今後、国の支援策、産官学連携、さらには技術者の倫理についても提言し、厳しい時代に対応した原子力教育の方策を探った。

議長=藤井靖彦・東京工業大学原子炉工学研究所教授

講演1

L・フォーク・米国原子力学会会長
「米国における今後の原子力教育・研究について」

 米国でも原子力工学の学生は80年代、90年代と減少した。原子炉の建設がなく、学生にとって原子力の魅力が薄れた。原子力工学教育は原子力産業の盛衰を反映、教育内容の問題ではなかったが、各大学はカリキュラムの変更などを検討した。原子力工学からエネルギー環境工学などへの移行であり、発電技術の存在価値は低下した。

 この状況は2000年代に入って、大きく変化している。政府のGWイニシアティブ、DOE2010プログラムなどが開始され、電力産業でも新しい炉の建設が動き出した。現政権はエネルギー戦略の中で、原子力を重要視し、推進政策を進めている。このため、90年代まで低調であった原子力工学分野に多くの学生が集まり、03年の学生数は98年に比べ倍増という状況である。大学間の協力体制も整備されており、学生の交流などが活発になっている。

 NEER、NERI、INIEなど各種のプログラムやコンソーシアムも発足し、これらの組織が資金的にも米国の原子力工学教育を支えつつある。工学教育を活気あるものにするには、原子力産業自体の活力と政府の支援が欠かせない。

講演2

宮本一子・日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会消費生活研究所長
「重くなる技術者の責務と倫理教育」

 マハトマ・ガンジーは社会を滅ぼすものに倫理なき企業を入れた。OECDは企業の信頼には誠実が必要とした。誠実とは道義・道徳を絶対視し、他の価値に惑わされないことである。

 当協会が、不祥事企業への態度を調査したところ、不祥事発生後のその企業の対応により態度を決めるとした比率が54%を占めた。消費者は過失は認めるが、隠蔽や虚偽報告に極めて厳しい。技術者はヒューマニティーがない技術は国を滅ぼす、利益と倫理は2律背反ではない、企業倫理は個人の倫理の集積、などの認識が不可欠である。ヒューマニティーがないとは、その技術が技術者の間だけに終始し、市民社会と距離を置くこと。個人個人が説明責任を負うという認識が必要で、原子力も市民の言葉で説明し、納得を得た上で選択を得るべきである。

パネル討論

工藤和彦・九州大学大学院工学研究院教授
「原子力学会の人材育成活動」

 トピックスとして原子力・放射線部門の技術士の新設、原子力分野の技術者継続教育などがある。技術士は原子力機器企業などの技術者が能力を示す資格。自己研鑽に具体的な目標を与え、倫理感を備えた技術者の育成が期待される。

 技術者継続教育は技術者専門能力開発協議会委員会の発足により、スタートし教育経歴の認証、記録の管理などの枠組みの構築、技術者に共通な教育カリキュラムの作成などを行う。

渡辺格・文部科学省研究開発局原子力課長
「原子力人材教育・研究開発基盤の確立」

 2002年における原子力工学課程の卒業生は学部、修士とも200人前後、博士約50名で、特に学部はここ5年あまりで半減している。かなりの大学が原子核工学科から量子エネルギー工学などに改組・名称変更した影響もある。04年度に新設された原子力関係学部は、茨城大学の応用粒子線科学専攻と福井大学の原子力・エネルギー安全工学専攻。原子力2法人統合による新法人は、大学との連携による人材育成を盛り込み、産官学の協力体制に期待する。

村上達也・東海村村長
「原子力技術教育と立地自治体について」

 東海村が目指す高度科学研究文化都市の目標は、(1)全国・全世界から研究者等が研究に専念できる環境作り(2)J−PARC、実験用原子炉等を利用、基礎研究→応用研究→産業化→更なる基礎研究、というサイクル作り(3)長期的展望に立った人材育成システム作り(4)文系・理系の枠を越え「知の総合化」を図る「国際総合教育研究センター」の誘致――などである。複数の大学院を1つのキャンパスに収容する「東海サイエンスビレッジ」構想もある。

田中俊一・日本原子力研究所副理事長
「変貌する原子力工学教育と技術基盤の構築─新法人の役割─」

 原子力2法人統合では新法人の役割として基礎・基盤研究の総合的推進と併せて、産学との連携が提示され、特に人材育成に関して積極的な寄与が明記された。新法人は、原子力自身が将来に向かって発展するための研究開発を牽引し、それにより優れた人材を原子力に向かわせる環境を構築することが最大の使命。原子力工学教育の中心である大学に対して意味のある協力・支援ができると考える。こうした取り組みはすでに東京大学などとの間で具体的に進み始めている。

上坂充・東京大学大学院教授
「東京大学における原子力大学院改革」

 東京大学は、現在の工学系研究科付属原子力工学研究施設と原子力研究総合センターを、専門職としての原子力専攻と原子力国際専攻に改組する計画である。原子力2法人と連携し、客員講座を設ける。原子力専攻は専門実務に携わる人材育成を目的とし、国際専攻はIAEA等の職員など国際レベルで高度な原子力研究のリーダーシップを発揮できる人材の養成を目指す。詳細は来年1月頃決定、4月に設立を予定する。

井頭政之・東京工業大学原子炉工学研究所助教授
「東京工業大学における原子力工学教育の現状と今後の展望」

 東京工業大学の原子核工学専攻は現在、核分裂・核融合炉工学、量子・放射線工学、環境・エネルギー工学の3領域。中期目標として、高い学力、豊かな教養と論理的思考に基づく知性、社会的リスク対応力、幅広い国際性を持つことを掲げており、修士課程では問題解決能力重視、博士課程では国際的にリーダーシップを取れる問題設定能力とその解決および科学技術に関する幅広い学識を目指す。このため来年度からカリキュラムの抜本的改革を予定しており、現在その内容を検討している。

北村俊郎・日本原子力発電理事
「企業における原子力人材育成と技術基盤確保」

 企業における人材の課題は、いかに若い世代に技術技能を伝承し質を確保するか、いかに優秀な若者を原子力発電に引きつけ量を確保するか、いかに経済性と信頼性を両立させるか、などである。質の確保は計画的OJT、多層構造緩和による人員の固定化、量の確保は多能工化、ルール見直し、産業の魅力化、産官学協力による原子力教育推進など、経済性と信頼性は直営というシンプルな体制への移行、アライアンスの推進など。


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