[原子力産業新聞] 2004年4月30日 第2233号 <6面>

[原産] 年次大会セッション4「自由化のもとでバックエンド事業をいかに進めるか」

 セッション4「自由化のもとでバックエンド事業をいかに進めるか」ではまず、ドイツ証券会社東京支店ディレクター圓尾雅則氏が、「資本市場から見た電力自由化」、続いて京大名誉教授の神田啓治氏が「バックエンド事業―今何をなすべきか」と題して、それぞれ基調講演を行い、続いてJ−J・ゴトロ仏AREVA社副社長、佐竹誠・東電原子力本部副本部長、塩越隆雄・東奥日報編集局長、山地憲治・東大院教授らパネリストによるキーノートの発表と、ディスカッションを行った。

ドイツ証券会社圓尾雅則氏
「資本市場からみた電力自由化」

 電力自由化とバックエンドに関して、資本市場からという1つの見方で話をしたい。特に、(1)電力自由化で電力経営はどう変わらなければならないか(2)自由化は資本市場からどう評価されるか(3)第3次電力自由化の見方――などについて話したい。

 自由化によって変わったことで最も重要なのは、電力会社のバランスシートの見方と、経営の自由度の増加だ。電力会社では過去40〜50年間、電力安定供給に必要な資産・経営資源、つまりバランスシートの左側(資産の部)をまず考えてきた。これは、普通の企業とは全く逆で、普通の企業は、事業リスクと比べながら資金を集め、資産が形成されるので、まずバランスシートの右(負債の部)ありきだ。電力会社にとってこれが可能だったのは、総括原価方式があったからで、必ず資金回収ができた。

 2000年の第2次自由化以降、総括原価方式が崩れ、この図式が成り立たなくなってきた。これまでのように資金が豊富には使えないので、効率のよい資産形成が必要だ。

 事業によって得られた利益をどう使うかが企業経営の最大のポイントだ。これまで電力会社では余剰利益が許されず、消費者に還元するしか選択肢はなかった。第2次自由化後、余剰利益の使い方には多くの選択肢ができた。私から見ると、バックエンド事業への投資もこの選択肢の1つだ。

 95年の規制緩和は特に重要な変化はなく、電力会社にとってはむしろ、燃料費調整制度の創設で事業リスクが軽減した。しかし2000年の第2次規制緩和は、電力料金値下げの届け出制により経営手腕を試されることになり、送電線開放と大口自由化で事業リスクが拡大した。バックエンド事業のリスクはこの時点で解決しておくべきだった。

 東京電力の損益計算書を見ると、第2次規制緩和後に利益が上がってきている。電力販売の不振で実体面での収益力は低下しているが、利息と投資の減少で利益が増加、バランスシートも改善している。

 事業リスクの観点から見た2005年の第3次緩和のポイントは、リスクを増大させる方向ではパンケーキ構造の是正、卸電力取引所の創設、自由化の拡大など。リスクを軽減させる変化としては、官民の役割分担の明確化、バックエンド事業に対する経済的措置などがある。規模が小さい特定規模電気事業者(PPS)との競争の影響は少ないが、電力会社間で競争が起これば、インパクトは大きい。

 バックエンド事業は特殊なものではなく、発電所建設や他の事業への投資と同じく、コストの回収とリターン追求が必要だ。電力経営者から、これが資金の使途の1つとの説明がないのは残念。株式会社の経営者である以上、説明が必要だ。バックエンドの必要性だけでなく、今やるべきかどうかも、議論してほしい。

神田啓治・京大名誉教授
「バックエンド事業─今何をなすべきか」

 日本のバックエンド政策で問題になるのは、(1)全量再処理すべきか(2)国の関与はどうすべきか――の2点だ。六ヵ所再処理施設では全量再処理は無理で、半量は中間貯蔵で次世代の資源として貯蔵することになる。東電はむつ市で50年間の貯蔵を考えているようだが、100年間程度も考える必要があるのではないか。仏では、長期中間貯蔵として100〜300年を提案している。

 エネルギー基本計画が掲げる3つの目標のうち、エネルギーセキュリティや安定供給については、国が関与すべきである。再処理などバックエンド事業を電気事業者に全面的に任せるのは無理であり、国家のエネルギー安全保障を民間企業に任せてよいか問題だ。また、国は国民の理解を得る活動を前面に出て実施する必要がある。

 使用済み燃料の中間貯蔵事業はエネルギーセキュリティ上、重要な事業となろう。使用済み燃料は50年後からの貴重な資源である。米国のユッカマウンテン、フィンランドのオルキルオト、スウェーデンのオスカーシャムなど、直接処分をとっている国でも、深地層処分場というのは名ばかりで、いずれも使用済み燃料の保管場になっている。必要となれば再取り出しができる設計になっており、米国ではユッカマウンテンに「ウラン鉱山を作る」とも表現している。仏も、再処理しない使用済み燃料の再取り出しの研究をオスカーシャムの深地層研究所の一部で実施している。

 日本は、エネルギー資源が乏しい、電力網やガス・石油パイプラインが隣国と接続していない、軍事力が使えないなど、エネルギーセキュリティ上脆弱な立場にあり、今何ができるかを考え、できることは何でも努力すべきではないかと考える。

パネル・ディスカッション

再処理と中間貯蔵のバランスについて

佐竹 再処理と中間貯蔵は半々だが、2010年頃から第2再処理工場を検討する。

神田 半数再処理、半数貯蔵は資源備蓄との考え方で、ムリに第2再処理工場を作れとは言いにくい。

山地 中間貯蔵後にどうすると地元に申し入れているかが問題だ。全量再処理の建前をはずし、オプションを広げるべきだ。

国、自治体、企業の役割分担について

塩越 青森の地元では、前面に出るのは企業と自治体で、国は出てこない。地方では、国全体の大きな見地から見た情報が不足している。コストについても再処理工場は、もともと1兆円を切る見積もりからここまで膨らんできており、バックエンド総事業費も19兆円では収まらない。こんな中で競争をやれば電力会社はつぶれる。事業者ではなく国の役割だ。

神田 国が今度、青森県内で説明会を開くことになっており、エネルギー基本計画にある国の説明責任が果たされ始めている。


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