[原子力産業新聞] 2004年4月30日 第2233号 <5面>

[原産] 年次大会セッション5「市民社会の中の原子力」

 セッション5は「市民社会の中の原子力」をテーマとする。第1部では多くの活動を展開しているNPO/NGO関係者から、第2部では会場参加者も交えて意見交換を行った。


第1部 NPO/NGOフォーラム

「日本のエネルギー・原子力、環境政策をこう改革したい」
コーディネーター・井川陽次郎・読売新聞論説委員

〈パネル討論〉

秋庭悦子・NPO法人あすかエネルギーフォーラム理事長

 あすかエネルギーフォーラムの交流により感ずるのは、電気の生産地と消費者の意識にギャップがあるということ。消費地の消費者への関心を喚起するため、消費者が発言できるような場が必要である。

上田昌文・市民科学研究室代表

 研究室は科学技術政策と研究開発の適正な制御に対する市民の意志反映が目的。専門的分析ができるNPO、電気事業者、自治体を交えた諮問委員会を創設し、複数の長期的シナリオを描き、コンセンサス会議の開催などを提案する。

大林ミカ・NPO法人環境エネルギー政策研究所副所長

 研究所は持続可能なエネルギー政策の実現を目的とし、原子力政策では開かれた議論の場を設け、核不拡散、経済性、安全性などの観点から核燃料サイクルの見直しを求める

柏谷弘陽・NPO法人資源環境型社会発信地域創造グループ代表

 EGGは不法投棄や有害物質を監視、エネルギーフォーラムを定期開催している。有害物質の監視は六ヵ所村の定点測定地に金資料を置き、金沢大学の協力を得て中性子測定を実施。我々は安全は与えられるものではなく、創り出すものである、と考える。

青野千晶・NPO法人IOJ委員

 原子力発電をめぐる社会風土を改善するため、国・電力事業者・地方自治体・学識経験者などが参加した政策決定プロセスの再構築を提案する。若い世代の科学的知識と知力の向上を目指した教育活動も実施している。

坂元浩治・全国電力関連産業労働組合総連合社会・産業政策局長

 エネルギー政策は自給率と環境が重要で、原子力は脆弱なエネルギー構造の是正、環境政策などから、社会的信頼を得ながら更なる充実が必要。経営効率化が進むなか、安全コストを削減せず、可能な限り低被ばくの作業環境などに取り組む。

コメンテーター・内山洋司・筑波大学教授

 原子力政策への不満は、関係者のみの決定に対するもので、双方向の情報交換が必要。説明責任は重要だが、同時に責任ある批判が求められる。原子力は偏った情報が多い。技術評価は公平でなければならず、マスコミの責任は重い。再処理は、長期的視点では必ず必要な技術、安全で完全な技術を確立すべき。電力事業者には発電所で働く地元職員と地元住民との間での交流を提案する。

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第2部「市民の意見交換の集い"豊かさってなんだろう?"」では、フリーアナウンサーの土屋佳子氏をコーディネーターに、大橋照枝・麗澤大学国際経済学部教授、鈴木由紀子・フリーライター、別府庸子・兵庫県立大学環境人間学部教授の各氏をコメンテーターとし、原子力関係組織の女性職員3名がレポーターとなり問題提起を行った。

レポーター、三橋己紀・電力会社エネルギー広報担当 スローライフが社会的関心事になっている。原子力の役割は今後も大きい。スローライフ的発想と原子力は共存できる。

内山氏・筑波大学 現代社会の大量生産というライフスタイルの変革は難しい。エネルギーの限界に達しなければライフスタイルの劇的な変更はあり得ない。

鈴木氏 ドイツの消費者の日常生活が環境保護を指向したものであることを体験した。日本も環境立国を目指すべきである。

神田氏・京都大学 ドイツでは、政府が石炭業界保護のため2酸化炭素削減に消極的であり、国レベルでは環境立国となっていない。

レポーター、岩城智香子・原子力機器メーカー技術者 「少子高齢化と人口爆発」が進み、世界のエネルギー消費が増加する中で原子力の役割は引き続き重要である。今後は政策策定などへの女性の参画、女性の信頼醸成が重要である。

上田氏・市民科学研究室 先進国の生活水準維持と途上国のエネルギー消費増大は2律背反のもので両立しない。エネルギー消費を減らしつつ豊かさを求めるのがスローライフの精神である。意識の改革が必要だ。

宅間氏・原産 地球全体のライフスタイルをどうするかという発想の中でエネルギー問題等を考えていくことが必要である。

内山氏・筑波大学 途上国もいずれ少子高齢化するので先進国が模範となる行動を取ることが必要である。途上国のエネルギー消費増大が続く中で先進国は省エネルギー、インフラの再構築等で対応すべきである。

大林氏・環境エネルギー政策研究所 途上国でも省エネルギー教育、政策が進められている。効率のよい機器の開発・普及とともに市場政策を実施することが不可欠である。日本は先進的技術の支援で途上国に協力することが望ましい。

大橋氏 エネルギー・資源に関する国際的コンフリクトをいかに解決するか教育が必要である。

レポーター、佐藤広恵・原子力発電所運転員 食の安全・安心について関心が高い。BSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザのようにどんな食物にもリスクが存在する。正確な情報を迅速に伝えること、リスクコミュニケーションが重要である。

別府氏 安全と安心については、浅田農産の鳥インフルエンザ事件のように安心を第3者が作り出すことは困難である。リスクを認識し、その上で安全を確保することが重要である。

秋庭氏・あすかエネルギーフォーラム 消費者は安全であることを納得しないと安心しない。情報を積極的に取得するようになって安心に行き着く。

池本氏・電力中央研究所新技術で省エネルギーが実現できる。安全な原子力発電技術を検討中である。


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