[原子力産業新聞] 2004年5月27日 第2236号 <3面>

[IAEA] 研究炉の新たな使命 (2) 脳腫瘍治療など新たな用途も

 先週号に引き続き、国際原子力機関(IAEA)広報部がまとめた「研究炉の新たな使命」と題する報告の概要を紹介する。 研究炉はなぜ停止されるのか

 研究炉の停止と解体の理由には、施設、材料、機器の老朽化、職員の高年齢化、当初の役割の終了による利用頻度の低下、政府予算の減少、資金難、多くの先進工業国における原子力発電計画の停滞、そして必要な高密度・低濃縮ウラン燃料の不足などが挙げられる。

 米国務省の物理科学担当官A・クラス氏は、原子力を学ぶ学生達のための研究施設が不足している点、また研究炉が裕福な国に偏っている点を指摘、もしこれらが開発途上国にあれば、それらは原子力科学技術の中心地となるはずだと語る。

新時代への適応

 古い研究炉にも、全く望みがないわけではなく、多くの国で旧型研究炉が活躍している。たとえば、フィンランドで1962年以来稼働している出力250kWのFiR−1研究炉では、ボロン中性子捕獲治療(BNCT)と呼ばれる脳腫瘍の放射線治療を行っている。BNCTは、従来の放射線治療と比べ、目標のガン細胞をうまくたたくため、中性子照射による健康な細胞の損害が極めて少なくなる。治療は1、2回で済み、従来の放射線治療法で30回の照射が必要だったことと比べても、患者の負担が小さい。

 フィンランド技術研究センターのBNCTチーフ、I・アウテリネン氏は、1999年5月以来、同炉が30人近い患者を治療、この炉による治療は、世界一の水準だと語る。

 研究炉の価値を保つためには、もうひとつ商業的な運営を行なう道がある。世界中の研究炉の資金が削減される中、アルゼンチンと南アフリカは、研究炉の運営を独立採算化する方法を選んだ。南アの研究炉は、現在六六%の運営費を、RI製造とシリコン・ドーピングからの収入に依っている。クラス氏は、「研究炉が独立で採算をとり、利潤をあげることはまだ夢だが、南アの例は、これに近づいている」と語る。

科学技術の中核に

 IAEA担当官のリッチー氏は、今日の困難な環境で研究炉が生き延びるためには、優れた計画と研究内容を持ち、十分な資金と共に市場の競争力を備えなければならないと語る。

 一方、IAEAの谷口富裕原子力安全・セキュリティ局長は、現在稼働中、計画中の研究炉の多くは、現実的な利用計画も、確たる廃止・解体計画も持たないようだと指摘する。IAEAは、加盟国に対して、研究炉の解体措置までを含めた長期的な開発戦略立案への支援を行なう。

 IAEAはまた、一台の研究炉で、隣接する諸国にも事業を提供できるような「地域原子力科学技術センター」の設立も奨励している。たとえば、ルーマニアのピテスティの研究炉は、同国の燃料開発、安全性、信頼性に関する研究の他に、近隣諸国との共同研究と訓練プログラムにも使用される。

 多くの老朽化した研究炉は、この厳しい新たな環境で生き残ることはできない。「このような炉の停止と解体を躊躇する気持ちは分かる。しかし遅かれ早かれ、これはやらなければならない。特に停止・解体の計画段階で、IAEAはこれを支援する」とリッチー氏は述べている。


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