[原子力産業新聞] 2004年5月27日 第2236号 <4面>

[概要] エネルギー白書

 5月20日号既報の通り、政府は14日、2003年度の「エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)」を閣議決定した。同白書はエネルギー基本法に基づき取りまとめられたもので、今回が第1号。当該年度に起きたエネルギー問題や、国の対応などについて、詳細に述べられている。今号では同白書「ポイント」の概要を紹介する。

1、イラク攻撃前後の石油市場

▽2003年の国際石油市場では、原油価格は基本的に高値で推移。

▽2003年3月、アメリカによるイラク攻撃が避けられないとの観測が高まる中、原油価格は1バレル当たり37ドル台と1990年以来の最高値を記録。

▽3月18日には米国がイラクに48時間の猶予を与える旨通告。同日夕刻には、政府は産油国から安定供給を確認(3月20日軍事行動開始)。

▽中東産油国を中心にOPECが市場安定化のため増産を行ったこと、軍事行動が早期に終結するとの観測があったこと、国際エネルギー機関等を通じて消費国間で協調を図ったこと、供給途絶の恐れが限定的であったこと(当時、イラクによる輸出量はOPEC生産量の約5%)等もあり、石油価格は急落し、市場の混乱は回避できた。

▽イラク攻撃に際しても大きな混乱がなかったことは、国内消費量の約170日分(当時)に相当する石油備蓄による安心感に加え、第一次及び第二次石油危機、湾岸危機の経験を踏まえ、国民が冷静に対処したため。

2、関東圏における電力需給の逼迫問題と原子力安全規制改革

(1)東京電力の不正問題と電力需給の逼迫

▽東京電力の自主点検等の不正問題に端を発し、2003年4月には、東京電力の原子炉17基全てが点検のため停止し、同年夏の関東圏の電力供給に懸念が生じた。

▽5月には、関東圏電力需給対策本部(本部長=経済産業大臣)が設置され、東京電力に対して需給両面の対策を求めるとともに、関東圏の地方公共団体の協力を得て、国民各層及び産業界に対し、広く節電の呼びかけを実施。

▽2003年夏の最大需要電力は6450万kWに達することも想定されていたが、供給力面で地元の理解を得て七基の点検を終えた原子炉が再稼働し、需要面では気温が低いレベルで推移し、また、国民各層に節電の取り組みが広がったことから、最大電力は5736万kW(9月11日)にとどまり、需給上の問題は生じなかった。

▽こうした事態を二度と招かぬよう、後述する原子力安全規制の改革を実施するとともに、分散型エネルギーの導入促進、ピーク需要抑制のための対策、電力の広域融通の体制整備などの検討を開始。また、電気の生産地と消費地の住民が参加するシンポジウム等を開催し、消費地の住民の電力生産地に対する理解を深める取組を実施。

(2)原子力安全規制の改革(=図1)

▽東京電力(株)の自主点検等の不正間顔などを受け、政府は、原子力安全規制の抜本的な見直しを行い、2003年10月より新たな規制制度を本格実施。

  • 自主点検を「定期事業者検査」として法律上義務付け。
  • ひび割れが生じた場合に設備が有すべき構造的な健全性を評価することを事業者に義務付け(いわゆる「維持基準」の導入)。
  • 事業者による「品質保証活動」を、国が保安検査で確認。
  • 原子力安全委員会によるダブルチェック機能を強化・拡充。
  • 国の安全規制を実行する検査官等の数及び質を充実。また、約400名の専門家集団であり国と連携して規制業務を遂行する独立行政法人「原子力安全基盤機構」を設立。

▽国民との信頼関係の構築のために、規制行政に関する十二分な検証が必要であることを再確認し、さまざまな関係者との継続的な意見交換を精力的に実施していくため、以下の取組を開始。

  • 立地地域の議会、住民への説明会等で発電所の安全確保対策や新しい安全規制制度の説明、意見交換を実施。
  • 国の安全規制について広聴・広報体制を強化。

3、日本の二酸化炭素排出量と京都議定書を巡る動き

▽「京都議定書」では、我が国について2008年から2012年の第一約束期間において基準年レベルから6%の温室効果ガス削減を規定。

▽京都議定書の発効の鍵となるロシアは、現在まで批准には至っていない。

▽政府は、2002年3月に「地球温暖化対策推進大綱」を決定し、「環境と経済の両立」などを原則とする200を超える対策・施策を実施

▽抑制対策として、経団連による環境自主行動計画のフォローアップや省エネルギー法の改正、トップランナー対象機器の拡大といったエネルギー需要面の対策に加え、原子力発電の推進、新エネルギーの導入促進、燃料転換といった供給面からの対策を実施中。

▽エネルギー起源の二酸化炭素は、温室効果ガスの九割を占め、その排出量を第一約束期間には、1990年度レベルに抑制することが目標。

▽しかしながら、2001年度エネルギー起源の二酸化炭素の排出量は、1990年度比で8・6%増。産業部門での排出量は減少、運輸・業務その他・家庭部門からの排出量は増加。

4、オフィスビル等での省エネルギー対策の強化

▽エネルギー需要の増加傾向が著しいオフィスビル等の民生業務部門における省エネルギー対策の強化を図るため、2002年6月に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」を改正、2003年4月1日から施行。

  (略)

5、新エネルギー導入の推進(RPS法の施行)

▽2003年4月から「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が全面施行。

(略)

6、水素エネルギー導入に向けた機運

▽燃料電池は、水素と大気中の酸素との化学的な反応により、直接電気を発生。

 ・水素は、天然ガスなど化石エネルギーの改質や、太陽光、風力、原子力発電による水の電気分解など多様なエネルギーから作ることが可能。

  (略)

7、電気事業法・ガス事業法の改正(=図2)

▽2003年の法改正による制度改革は、電気・ガスの安定供給の確保、エネルギーセキュリティや環境保全等の課題に対応した電力・ガス供給システムの構築を図り、併せて、需要家の選択肢を拡大すること等を目的。

▽川上から川下まで一貫した体制で供給を行う「責任ある供給体制」を前提として、新規参入者を含む各種の供給主体の公平かつ透明なネットワーク(送電線網及びガス導管網)の利用、広域的な流通の活発化などを目的。

▽電気事業法の改正では、@電力会社が所有する送配電網(ネットワーク)の利用に関する調整機能の確保A電力の広域流通の円滑化B分散型電源からの供給の容易化等の措置を規定。

▽ガス事業法の改正では、@ガス導管事業の法律上の位置付けAパイプラインの利用(託送)に関するルールの充実・強化Bガス市場の活性化を図るための大口供給規制の見直し等の措置を規定。

▽広域流通の活性化や分散型電源による電力供給の容易化を通じて、需要家にとっての供給者に関する選択肢の拡大を図りつつ、小売自由化範囲の段階的拡大を進めている


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