[原子力産業新聞] 2004年7月1日 第2241号 <3面>

[シリーズ] ウクライナ便り 長引くチェルノブイリ被災者援助 (2)

 ウクライナ保健厚生省は、現在でも事故後に登録された事故回収作業労働者とその家族、立ち入り禁止区域の元居住者、並びに汚染区域の住民達を、事故後に出生した子供達を含め、追跡調査を続け、被ばくレベル別のグループ毎に、病気と診断結果を記録している。

 しかし、20万人に及ぶ事故回収作業労働者一人ひとりの被ばく測定記録は、例えば我が国の原子力施設の作業者に行なわれるようなものではなく、当時の作業現場環境の放射線量率などをもとにしたものである。また、立ち入り禁止区域からの避難住民や、放射能汚染区域居住者達の被ばく線量についても、ひとりひとりを特定すべくもなく、そうした集団のカテゴリーの中で取扱うだけである。つまり、被災者達の事故との因果関係は、放射線被ばくではなく、どの集団に属していたかの記録を基に識別されている。一般に、20万人の集団の中からは、チェルノブイリ事故の有無に関わらず、800人が自然に発生する白血病により死亡し、41500人がガンにより死亡すると言われる。IAEAなどによる評価は、20万人のチェルノブイリ事故回収作業労働者中から当時の放射線被ばくにより発生するであろう白血病による死亡者数は、自然に発生するものより低く、その2割、ガンによる死亡はその5%と推定している。

 また一般に、710万人の集団から自然に発生する白血病による死亡者数は2万5000人、ガンによる死亡者数は87万人から110万人と言われるが、IAEAなどによる評価では、厳重管理区域及びその他の放射能汚染区域に居住する住民合計約710万人から発生するこれらの病気は、自然に発生するものより小さく、それらの0.4%から9%程度としている。

 ウクライナの多くの人たちは、これを過少評価だと言う。理由のひとつは、旧ソ連の社会制度の中で、事故との因果関係を持つとして登録された人々からの病気発生の情報が増えているからである。

 なお、小児の甲状腺ガンは、一般に100万人に1人か2人の発生率だと言われるが、IAEAなどの専門家は、事故当時0才から14才だった事故の影響を受けた約100万人の子供の甲状腺ガン発生件数を、200件から800件と推定していた。この点は、調査対象となる小児の甲状腺ガンの事故との因果関係を示すものだ。

 しかし、事故発生から18年が経過する現在、他の病気も含め、増え続ける情報をこれからどう評価すべきか、頭の痛い問題だ。様々な意味で、チェルノブイリ事故の影響は存在する。少なくとも30万人の人々を避難させる必要があったことは無視出来ない事実であり、これによる多くの波及効果が当然あるはずだ。また、それに続く社会制度の変化や経済状況の悪化も切り離すことが出来ない。

 チェルノブイリ事故被災者援護を考える際、こうした社会環境の変化を受け、現在問題を抱える人々への対策としてとらえる視点も必要だ。(終わり)


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