[原子力産業新聞] 2004年8月19日 第2247号 <2面>

[サイクル機構] 水素の製造に目処

茨城県大洗町の小谷隆亮町長は7月22日、大洗町を水素製造の中核拠点として整備する構想を表明した。核燃料サイクル開発機構が開発した水素製造装置を視察した際に明らかにしたもの。

核燃料サイクル開発機構・大洗工学センターの永田敬所長らと懇談した小谷町長は、水素製造装置をコンパクトでシンプルと高く評価。「この構造ならば、コストがかからず、小型の高速増殖炉(FBR)と組み合わせて水素の製造ができるのではないか。是非とも大洗町に小型FBRを建設し、将来の水素社会をリードしていきたい」と、抱負を語った。また同町長は、「大洗町では日本原子力研究所も、高温工学試験研究炉(HTTR)を用いた水素製造を行っている。今回のサイクル機構による水素製造の成功を契機に、2つの装置がコスト面で切磋琢磨することで、大洗町を原子力による水素製造の中核的な拠点として整備していきたい」との見解を示した。

永田所長は、「まだサイクル機構の水素製造研究は緒についたばかり。今後一層のコスト低減も含めて実用化研究を重ね、大洗町の皆様の期待に応えたい」と応じた。一方で小型FBRについては、軽水炉よりも経済性を向上させなければ(建設は)難しいとしながらも、大洗町からの全面的な支持も得られていることを踏まえ、今後も安全確保を最優先に、地域のニーズに応えられる組織にしていきたいと語った。

サイクル機構の水素製造装置は、「ハイブリッド熱化学法」と呼ばれる技術に基づいたもので、製造過程全体の低温化と、装置のシンプルな構造が特徴。サイクル機構は、化学反応を促進するため、燃料電池と共通の素材である市販のセラミック素材を電解質として利用。熱化学法に電気分解を組み合わせることで、500〜550℃の低温での効率的な水素製造に成功した。

500℃台の温度はFBRの炉心出口温度に相当する。このため、「もんじゅ」や「常陽」など既存のFBRでも水素製造ができる見通しが立ったことになる。サイクル機構はこれまでに2時間連続、5時間連続の安定した水素製造に成功している。今後は装置の各部に劣化が生じているかどうかを確認した後に、100時間連続の水素製造実験に着手する。2008年に5N立方m/時級(1時間あたり5立方メートルの水素を製造するレベル)の試験プラントを製作し、実用化・商用化のメドが立てば原型プラントの設計に着手したい意向。

なお、サイクル機構は「ハイブリッド熱化学法」を国内および欧米で特許出願中。米アルゴンヌ国立研究所は同機構に共同研究を申し入れ、米エネルギー省のINERI(International Nuclear Energy Research Initiative)に提案している。


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