[原子力産業新聞] 2004年8月26日 第2248号 <2面>

[レポート] 小谷隆亮・大洗町長に聞く

本紙8月19日号既報の通り、茨城県大洗町の小谷隆亮町長(=写真)は7月、核燃料サイクル開発機構が開発した水素製造装置を視察の際、同町を水素製造の中核拠点として整備する構想を明らかにした。

小谷町長は、何故こういった構想を持つに至ったのか。FBRや核燃料サイクルについては、どのような考えを持っているのか。実際に聞いてみた。

──原子炉の熱利用に着目した理由は

大洗町と原子力とは、40年以上に及ぶ信頼関係がある。私は町長として、町の重要な資源としての原子力に加え、海など自然環境を有機的に活用した産業・観光の振興に重点を置いている。大洗町にはサイクル機構の高速実験炉「常陽」をはじめ、3つの原子炉がある。この3つの原子炉を産業や生活にどうしたら有効に活用できるか、と考えたのがきっかけだ。

──水素製造に注目したのも、同様な考えからか

温暖化防止の観点から、将来は水素エネルギー社会へと移行するだろう。日本でもそろそろ、水素社会への具体的な展望が見えてこなければならない。

幸いにも大洗町では、サイクル機構と原研が水素製造に着手しており、私としても大洗町を原子力による水素製造の中核拠点として整備し、水素社会をリードしたいと考えている。

──小型FBRの立地構想を持っていると聞くが、具体的には

発電だけでなく熱利用、水素製造と多目的に利用できる可能性のあるFBRは「打ち出の小槌」のようなもの。大洗町に実用規模の小型FBRを建設し、核燃料サイクルを完結させたい。ここで特筆すべきことは、大洗町のニーズ(電力出力規模、熱の多目的利用等)に合致した小型FBRを建設するということである。そのための共同研究・事業を開始したいとも考えている。

──核燃料サイクルの見直しを主張する声について、どう考えているか

100年でなくなるウラン資源を1000年まで有効活用できるということで始まったのが核燃料サイクルだ。私たちもエネルギー・セキュリティはもちろん、資源の有効利用という理想に共鳴して、核燃料サイクル路線を支援し、その一翼を担ってきたという自負がある。核燃料サイクルの見直し論が囁かれるが、エネルギー資源小国であるわが国にとって、エネルギーの大量安定供給と環境負荷低減を両立することのできるFBRを核とする核燃料サイクルは是非とも完結させるべきだと考える。

電力自由化の影響でコスト面がクローズアップされているが、単純な(発電量あたりの)コスト比較ではなく、環境への負荷度や付加価値(例えば、原子炉の多目的利用)等を総合的に勘案した新たなコスト概念が必要とも感じている。

──「もんじゅ」の運転再開がストップしているが

もんじゅは、常陽とならんでFBR開発の中核をなすものであり、「地元の理解」と「安全な業務遂行」のもとに、早期に運転を再開することを願っている。

──常陽の改造工事の際には町長みずから3度も足を運んで激励したと聞いたが

繰り返しになるが、大洗町としては、エネルギーセキュリティの観点から核燃料サイクルの確立は必要且つ重要であり、これにはFBRの開発・実用化、ならびにその中核をなす常陽MKVの成功が不可欠であると考えている。したがって、MK─V改造工事の安全遂行を願ってサイクル機構のスタッフを激励するとともに、同工事の完遂を意味する使用前検査の合格の際にも馳せ参じた。

大洗町は「原子の火を育て」という言葉通りに、常に原子力とともに歩む姿勢を貫き続けていきたいと考えている。

大洗町には、サイクル機構が建設した「大洗わくわく科学館」という体験型科学館がある。

小谷町長は企画段階から参画し、コンセプト作りを主導した。こどもたちから科学する心が薄れてしまっているとの思いから、原子力を強調せずに科学全般を取り上げ、その一環で自然と原子力への理解が深まるように工夫したという。

開館して3年で、この種の施設としては異例の来館者数60万人を突破。入館数は右肩上がりで増加している。小谷町長は「リピーターが多い」と嬉しそうに目を細めた。

(石井敬之記者)

小谷隆亮(こたに・たかあき)氏 1939年生まれ、58年大洗町役場職員採用、68年総務課財政係長、74年企画室長、88年大洗町助役、96年大洗町長就任(現在2期目)


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