[原子力産業新聞] 2004年9月30日 第2253号 <4面>

[総合資源エネルギー調査会] バックエンド事業の制度・措置の在り方(下)

先週号に引き続き、経済産業省が8月30日に発表した総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の中間報告「バックエンド事業に対する制度・措置の在り方について」から、バックエンド経済的措置の概要を紹介する。

バックエンド事業に対する制度・措置の在り方については、第2章及び第3章で示されたコスト等検討小委員会からの報告を踏まえ、当分科会に制度・措置検討小委員会を設置し、検討を行った。

同小委員会では、当分科0会と同様に、原子力発電及び核燃料サイクルに関する基本的な政策の方向性については、現行の原子力長期計画及びエネルギー基本計画等に書かれている内容を前提として、バックエンドについての経済的措置等の具体的制度・措置について、検討したところである。

基本的な考え方

原子力発電全体の収益性等の分析・評価として、「他の電源との比較において遜色はないという従来の評価を変えるような事態は生じていない」という結論が得られたところである。しかし、この結論をもって、制度・措置検討小委員会においては、直ちにバックエンド費用に対する措置の必要性がないと結論付けることにはならず、バックエンド事業の特徴等も十分に踏まえた上で、措置の必要性を論ずる必要がある。

なぜならば、バックエンド事業は、@極めて長期の事業であることA費用が極めて巨額であることB事業の不確定性が大きいことC発電と費用発生の時期が大きく異なること――という特徴を有するからである。

このまま何の措置も講じないことは、費用発生時の需要家に、過去の発電に起因する費用の負担を一方的に求めるものであり、世代間及び需要家間の公平性、バックエンド事業の円滑な推進という観点から不適当である。

コスト等検討小委員会で将来発生する費用について見積もられ、今回の経済的措置としては、引当金という形で、電気事業者が、受益者負担の原則の下、予め少しずつ積み立てる仕組みを整備することが必要である。

なお、制度・措置に伴う具体的な負担を考えるに当たって、再処理する予定のある使用済燃料の発生量に対応した積立単価を算出するなどの公平性・客観性を考慮した仕組みが必要である。また、既存の使用済核燃料再処理引当金において考慮されている再処理により回収されるウラン及びプルトニウムの価値を適正に考慮していくべきと考えられる。

措置対象のバックエンド費用の範囲

引当金という形で措置を講ずる場合、コスト等検討小委員会から報告されたバックエンド費用約18.8兆円のうち、既に引当金や拠出金といった制度が整備されているもの以外の費目について、それぞれの費用の性質等に鑑み、今回の措置の対象とすべきかどうかを判断する必要がある。

費目別にその性質等を詳細に検討した結果、以下のような整理が適当と判断したところである。

▽MOX燃料加工に関連する費用やウラン濃縮工場バックエンド費用については、バックエンドというよりはむしろフロントエンドと考えられることから、燃料加工費として整理することが妥当であり、受益者は将来当該MOX燃料や濃縮ウランによる発電の供給を受ける者であるので、今回の措置の対象とすることは適当ではない。

▽使用済燃料中間貯蔵費用については、再処理に直接関わる費用ではなく、中間貯蔵後の費用については今回のコスト等検討小委員会からの報告には含まれていないことも踏まえると、今回の措置の対象とすることは適当ではない。

▽輸送及び使用済燃料中間貯蔵費用以外の貯蔵に係る費用については、これまでの引当金制度では対象範囲外と整理されてきたところであるが、その考え方を新たな引当金制度に継承することは必ずしも適切ではない。措置の必要性の根拠となっている超長期性、費用の大きさなどのバックエンドの特徴と、その費用の性質とを照らし合わせれば、今回、措置の対象として使用済燃料中間貯蔵費用以外の貯蔵費用及び国内の再処理施設等からの輸送費用を新たな引当金制度の対象とすることが適当である。

既発電分についての取り扱い

既発電分の取扱いについては、総括原価制度の下では、費用の見積もりができない費用については、政府として料金原価に含めることを認めなかったことから、電気事業者において、費用計上を行うことができなかったことは事実である。このことに鑑みれば、既発電分を無視して、今後発生する使用済燃料の処理にかかるバックエンド費用のみを積み立てる制度とすることは適切ではなく、既発電分についても積み立てることができる仕組みを用意することが適当である。

その積立費用を誰が負担すべきかについては、受益者負担、競争中立性という観点も踏まえ、一般電気事業者の需要家のみならず、自由化後に特定規模電気事業者から供給を受けることとなった需要家も含めた形で、電気料金として回収することが妥当である。具体的には、託送の仕組みを使い、特定規模電気事業者は、回収代行という形で、自らの需要家から、既発電分にかかるバックエンド費用を回収し、一般電気事業者に支払うとともに、一般電気事業者は、自らの需要家からも、既発電分にかかるバックエンド費用を回収することが適当である。

他方、本制度が託送の仕組みを利用することに伴い、託送料金自体に対する透明性・公平牲もより一層求められることから、平成17年度から導入される送配電部門の会計整理を厳格に行うことが適当である。

積立単価の算定に当たっては適切な割引率の設定が必要となるが、割引率の設定には、安全性の高い長期の債券の利回りを基礎とすることが適切と考えられる。特定放射性廃棄物拠出金に準拠して現時点で再計算すると1.9%である。

積立金の管理・運営

今回の措置については、引当金として、電気事業者が将来の巨額なバックエンド費用のために毎年積み立てていくことが適当とされているところであるが、その際の積立金の管理・運営については、積立金を従来の使用済核燃料再処理引当金と同様に内部留保という形が適切か、一般電気事業者の外部に積み立てる形が適切かという点が検討されたところである。運用の効率性という観点からは内部留保の形の方が優れているとの見方も示されたが、透明性・安全性という点に重点を置くべきであることから、外部への積立てという形での管理・運営が適当である。

また、外部に積み立てられる場合、その積立て及び取崩しの具体的な制度については、少なくとも、バックエンド事業の適切な推進という観点からは、バックエンド事業の実態に合わせた積立てや取崩しを可能とするような柔軟性を考慮することが適当である。

なお、外部に積み立てる場合には、当該積立金の管理・運営の実施主体が必要となるが、その実施主体が電気事業にかかる将来発生する支出を予め積み立てるという公共性の極めて高い資金を管理・運営することから、透明性の確保という観点も含め、特定都市鉄道整備促進特別措置法の例に鑑み、その経理を明確にするなど外部の法人に対する公的関与が必要と考えられる。

既存の引当金との関係

既存の使用済核燃料再処理引当金についても、新しい制度の枠組みと整合させ、一本化を図ることが適当であるが、現在、電気事業者に内部留保されている使用済核燃料再処理引当金を一括して外部に積み立てることは、経営に大きなインパクトを与え困難であると考えられることから、激変緩和のため、最大15年間の経過措置を講ずることが適切である。

一括して外部に積み立てた場合には、その後バックエンド費用に充当されるまでの間に一定の利息が付くのに対し、経過期間を設けることにより、その期間中は、運用利息相当分は表れてこない。この経過期間が、激変緩和のための特別な措置であることに鑑みれば、電気事業者が外部に積み立てる際に、運用利息益相当分を併せて積み立てるべきと考えられる。

経済的措置の概要

上記の整理を踏まえ、措置の概要をまとめると以下のとおり。 参考 10銭/kWhの場合

1世帯当たり約30円/月

1人当たり約13円/月

上記の数字は、今回の制度を検討するに当たって、大まかな影響を知るためのものであり、今後、様々な観点から変動する可能性がある点については留意する必要がある。例えば、以下のような変動が想定される。但し、大きな計画変更により、積立額や料金原価に影響があるような場合については、当該変動を積立額や料金に反映すべきかどうか、反映する場合でもどのように反映するか判断をすることが必要である。

@上記の料金原価への影響は、コスト等検討小委員会の試算で用いた再処理のスケジュール及び再処理する予定のある使用済燃料の発生量に基づき算出したものであるが、実際の再処理スケジュールなどについては、具体的な計画を示す段階で確認されることになり、それによって変動するものである。

A今回の措置の対象として、今後、中間貯蔵等が予定されている使用済燃料については、その処理・処分費用が見積もられていないこともあり、上記の影響に含まれていない。よって将来、これらの見積りが明らかになった段階で、負担が確定すれば、上記の料金原価に算入することになる。

B上記の単価は、コスト等検討小委員会の試算で用いた再処理のスケジュール全体を見通した上での平均的な単価であり、具体的な制度設計及び各事業者の再処理に係る計画によって、料金原価への影響は異なるものである。例えば、上記単価は、中間貯蔵等が予定されている分が全体として半分程度あることを前提とし、その分の影響に含まれていない数字となっているが、具体的な制度設計によっては、各事業者で、中間貯蔵等にまわる分が年度によって増減することにより料金原価への影響が変動する可能性がある。


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