[原子力産業新聞] 2004年10月14日 第2255号 <3面>

[IAEA] エルバラダイ事務局長が会見 「核不拡散体制強化を」

 来日中のエルバラダイIAEA事務局長は、8日午後、東京・日比谷の日本記者クラブで記者会見し(=写真)、イラン、北朝鮮等の核開発問題や、核不拡散体制の強化について、記者団の質問に答えた。

―イランが濃縮計画を凍結しない場合、IAEAは国連安保理に付託するのか。

エルバラダイ IAEA理事会はイランに対して、@保障措置協定の遵守A信頼性確立のため濃縮関係活動の自粛――を求めた。第1点については、来週もIAEAの査察団がテヘランを訪問、かなり進展がある。第2点については、イランがウラン転換を進め遠心分離機の組み立てを行っているものの、濃縮は行っていないという点では、合致している。EU3か国もイランと政治的対話を進め、濃縮活動の全面停止を求めている。安保理に持って行くか、更にイランに時間を与えるかは理事会次第だが、私は査察・検証と外交努力を通して、問題が解決されることを期待している。イランがIAEAの要請を守り、国際的対話に道筋を付けると同時に、イランの安全保障などの懸念を解決するよう期待している。

―最近の米国の報告でもイラクには核兵器が無かったことが明らかになった。これに対する感想は。

エルバラダイ 戦争前にIAEAの査察が、イラクの協力無しでも機能していたということだ。国際社会は戦争という武力に訴える前に、IAEAの言うことを良く聴くべきという教訓が得られたと思う。

―イスラエルの核開発については確たる情報が少ない。IAEAではどの程度承知しているか。

エルバラダイ イスラエルはNPTや保障措置協定に入っていないので、情報が少ない。誰もがイスラエルは核能力を持っていると思っているが、検証できない。先のイスラエル訪問では、シャロン首相と保障措置受入れについて協議した。その際、中東の安定が重要で、この地域に大量破壊兵器があってはならないことを強調した。中東での和平プロセスが進展すれば、非核地帯構想も進むものと期待している。2005年1月にウィーンで中東非核地帯国際会議を開き、イスラエルも含む全中東諸国が出席する。

―韓国を訪問されたが、同国の秘密裏の実験や、その意図はどう見るか。また北朝鮮との関連では。

エルバラダイ 核兵器開発の意図は見つからなかった。プルトニウム分離、ウラン濃縮の実験が行われたが、IAEAに申告がなかった。政府の同意無しに実験が行われたと聞いているが、更に調べを進め、11月の理事会に報告するとともに、このようなことが再び起こらないよう確認する。北朝鮮は、国家としてNPTから脱退、大規模に再処理を行ってプルトニウムを抽出しており、韓国とは比較できない。

―「核開発を相互に監視する新たなシステムが必要」を唱えておられるが。

エルバラダイ 過去数年間、核不拡散体制はうまく機能していない。原子力関連機器の不法な取引、輸出管理の不備、北朝鮮の例でも見られる安保理の機能不全など、多くの問題を抱えている。核技術情報の普及や、核テロの脅威という新たな問題も出てきている。新たな脅威と現システムの危機から、新たな遵守体制が必要だ。これには、@追加議定書の普遍化A機微な技術・物質の輸出管理の改善B高濃縮ウラン・プルトニウムを生産する核燃料サイクルの凍結CNPT脱退へ安保理が制裁D強力に機能する集団安全保障体制構築――などがある。


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