[原子力産業新聞] 2004年11月18日 第2260号 <4面>

[新刊抄] 「原子力と報道」 中村政雄著

 読売新聞で科学部記者、論説委員として、原子力や環境、科学技術を見つめ続けてきたベテラン・ジャーナリストの新著。退職後は「原子力報道を考える会」を結成し、正確で公正な原子力報道を訴え続ける。

 「日露戦争を終結させたポーツマス条約の背景について、当時の新聞の大半が正確に伝えなかったことが、その後の日本の歴史を踏み誤らせたと司馬遼太郎は書き残している」と指摘、「原子力の報道で同じ過ちを繰り返してはならない」と、著者は「プロローグ」で警告する。

 原子力開発初期の熱狂的な原子力報道の歴史から筆を起こし、その後の原子力反対ムード、チェルノブイリ事故による反対の加速、欧州での脱原発の動きに呼応する日本のメディアに言及する。

 第2章「マスコミの使命」では、新聞が繰り返すミスリードの歴史をふり返り、誇大報道が起こる仕組みや、ポピュラリズムへの迎合など、マスコミの病巣を詳しく分析する。

 また、政治に翻弄される宿命にあるエネルギーとしての原子力を探り、政権奪取や党利党略の具にされたスウェーデンやオーストリアの例、社会党の「反原子力」の中身や住民運動とマスコミ、再処理工場凍結の背景などを説き起こす。

 第4章では、中村氏を中心メンバーとして作られた「原子力報道を考える会」の発足の経緯と活動、また最近、客観的で公平になってきたと評価する原子力ニュースの動向などを取り上げている。

 原子力界で広報に携わる人のみならず、原子力報道に疑問を持つ人、これを変えていきたいと考える人の必読の書。新書版、中公新書ラクレ(中央公論社)、189頁。定価720円。


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