[原子力産業新聞] 2004年11月25日 第2261号 <4面>

[原子力安全・保安院] 「AM整備後確率論的安全評価」評価報告書

 本紙10月21日号既報のとおり、経済産業省は10月18日、軽水型原子力発電所における「アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価」に関する評価報告書を発表、AMの有効性を確認した。同報告書の概要を紹介する。


PSAでAM有効性確認

はじめに

 通商産業省(当時)は、「原子炉設置者が自主的にアクシデントマネジメント(AM)を整備することは強く奨励されるべき」との原子力安全委員会決定(平成4年5月)を受けて、平成4年7月に軽水型原子力発電所の原子炉施設ごとに確率論的安全評価(PSA)を実施し、AMの検討をすること、それらの結果を報告すること、及び検討結果を踏まえてAMを整備することを電気事業者に対して要請した。

 その要請に対して電気事業者は、電気事業者の技術的知見に依拠する自主的な保安措置として、運転中及び建設中の原子炉施設に対するAMの整備方針をとりまとめ平成6年3月に通商産業省に報告するとともに、AMの整備につとめ、平成14年5月には、既設原子炉施設52基に対する整備を完了し、代表炉等に関するPSA結果を含めて原子力安全・保安院に最終報告した。

 当院は、電気事業者の報告書を精査し、「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書」(平成14年10月)にて、AM整備の有効性を含めて総合的な評価結果をとりまとめ公表している。

 当院では、電気事業者に対して残りの原子炉施設に関するPSAの実施を要請した(平成14年1月)。

 これを受けて電気事業者は、平成16年3月に、「アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書」を当院に提出した。

 当院は、平成14年10月の報告書においてAM整備の有効性を評価済みであることを踏まえ、本評価においては、代表炉以外の原子炉施設におけるPSAの結果と代表炉の結果の比較を行い、AM整備の有効性を再確認することとした。

評価対象施設と評価方法

評価対象施設

 平成14年度の評価報告にあたり、電気事業者は、我が国では原子力発電所の設計の標準化が進んでいることを踏まえて、原子炉型式、格納容器型式等でBWR型原子炉施設、PWR型原子炉施設のそれぞれについて4タイプの代表炉等に対してAM策導入前後のPSAを実施し、整備したAMの有効性を評価した。

 また、当院でも、原子力発電技術機構原子力安全解析所(当時)に委託して、電気事業者とは独立にその有効性を確認した。

 今回のPSA実施は既設の軽水型原子力発電所のうち、代表炉等以外の全ての炉を対象としたものであり対象施設は両表のとおり。

評価方法

 原子力発電技術機構で、電気事業者とは独立に代表炉におけるPSAを実施することにより、AMの有効性を確認している。

 今回は代表炉等以外の全原子炉施設のPSAが出そろったことから、個々の原子炉施設(炉)が属するタイプでの代表炉との比較の観点から、全炉心損傷頻度に着目し、PSA結果に有意な差が認められるものについては、その要因を分析するとともに、電気事業者とは独立に原子力安全基盤機構において、代表炉のモデルを用いて要因と考えられるモデルの変更を行い、感度解析を実施、PSA結果の代表炉との相違を定量的に評価する。

  PSAの結果「BWR型原子炉」

電気事業者のPSA結果

 各BWR型原子炉施設の炉心損傷頻度(CDF)及び格納容器破損頻度(CFF)を右表に示す。

BWRのPSAの評価結果

 電気事業者のPSA結果の評価結果を以下に示す。

(1)BWR4型炉の確率論的安全評価

 BWR4型炉の炉心損傷頻度をBWR4型代表炉(福島第一2号炉)と比較した。本結果から、福島第一5号炉の結果に有意な差があると考えられる。

(2)BWR5型炉の確率論的安全評価

 BWR5型炉(女川2、3号炉、福島第一6号炉、福島第二2、3、4号炉、東海第二、柏崎刈羽1、2、3、4、5号炉、浜岡3、4号炉、志賀1号炉、島根2号炉)の炉心損傷頻度をBWR5型代表炉(福島第ニ1号炉)と比較した結果、柏崎刈羽2、3、4、5号炉、島根2号炉、女川2、3号炉の結果に有意な差があると考えられる。また、浜岡3、4号炉、志賀1号炉の結果においても、BWR5型代表炉とは有意な差があると考えられる。

(3)ABWR型炉の確率論的安全評価

 ABWR型炉(柏崎刈羽7号炉)の炉心損傷頻度は、ABWR代表炉(柏崎刈羽6号炉)と同じである。このことから、柏崎刈羽7号炉については、電気事業者が当院に報告した確率論的安全評価は妥当なものと判断される。

 BWR型原子炉施設のPSA結果(格納容器破損頻度)の評価

 格納容器破損頻度(CFF)の相違は、炉心損傷頻度(CDF)の相違によるところが大きい。格納容器破損モードごとの格納容器破損頻度は、複数のプラント損傷状態によって引き起こされた同一の破損モードの和で表される。このため、炉心損傷頻度の相違が合理的に説明できることにより、格納容器破損頻度の相違も妥当であると判断される。

PSAの結果「PWR型原子炉」

電気事業者PSA結果

 各PWR型原子炉施設の炉心損傷頻度(CDF)及び格納容器破損頻度(CFF)を左表に示す。

PWR型原子炉施設のPSA結果の評価

(1)ドライ型二ループ炉の確率論的安全評価

 ドライ型二ループ炉(泊1、2号炉、美浜1、2号炉、伊方1号炉、玄海1、2号炉)における炉心損傷頻度をドライ型二ループ代表炉(伊方2号炉)と比較した結果、泊1、2号炉及び美浜1号炉の結果に有意な差があると考えられる。

@泊1、2号炉の評価

 泊1、2号炉では、AM整備前の炉心損傷頻度が代表炉と比較して低い。

a.代表炉との相違点

 泊1、2号炉は、全炉心損傷頻度に対して寄与の大きな「ECCS再循環機能喪失」の炉心損傷頻度がAM整備前において代表炉に比べて低い。

b.相違する主要な要因

 再循環切替操作に関して、代表炉は手動による切替えであるが、泊1、2号炉は自動切替の設計となっており、切替操作に係る信頼性が高い。このため、「ECCS再循環機能喪失」の炉心損傷頻度が低くなっている。

 原子力安全基盤機構において、代表炉のデータを用いて再循環切替に係るモデルを変更して定量評価を行った。この結果、AM前の炉心損傷頻度について電気事業者が実施したPSA結果とほぼ同様となり、炉心損傷頻度の相違が合理的に説明できる。

 なお、代表炉が原子炉格納容器内に代替再循環ポンプを設置する方式であるのに対して、泊1、2号炉は余熱除去冷却器の出口配管と原子炉格納容器スプレイ冷却器の出口配管の間にタイラインを設置する方式を採用している。原子力安全基盤機構において、代表炉のデータを用いて代替再循環方式に係るモデルを変更して定量評価を行った結果、泊1、2号炉のタイライン方式は、代表炉の代替再循環ポンプ方式と同程度の有効性があることを確認した。

A美浜1号炉の評価(以下略)

(2)ドライ型3ループ炉の確率論的安全評価

 ドライ型3ループ炉(美浜3号炉、高浜1、2号炉、伊方3号炉、川内1、2号炉)の炉心損傷頻度をドライ型3ループ代表炉(高浜3、4号炉)と比較した結果、伊方3号炉の結果に有意な差があると考えられる。(以下略)

(3)ドライ型四ループ炉の確率論的安全評価

 ドライ型四ループ炉(敦賀2号炉、玄海3、4号炉)の炉心損傷頻度をドライ型四ループ代表炉(大飯3、4号炉)と比較した結果、敦賀2号炉の結果に有意な差があると考えられる。(以下略)

 AM後の炉心損傷頻度の定量評価結果から、AM策の有効性も確認できた。

PWR型原子炉施設のPSA結果(格納容器破損頻度)の評価

 格納容器破損頻度(CFF)の相違は、炉心損傷頻度(CDF)の相違によるところが大きい。格納容器破損モードごとの格納容器破損頻度は、複数のプラント損傷状態によって引き起こされた同一の破損モードの和で表される。このため、炉心損傷頻度の相違が合理的に説明できることにより、格納容器破損頻度の相違も妥当であると判断される。


AMとは

 「アクシデントマネジメント(AM)」は、原子力発電所が設計基準事象を超えた場合において、炉心が大きく損傷する、いわゆる過酷事象(シビアアクシデント)に拡大するのを防止し、若しくは影響を緩和するために採られる、事故時における運転管理手法及び事故対応のための設備の整備。例えば、非常用炉心冷却系が機能しない場合に、消火水を利用して炉心を冷却することや、当該プラントの電源が喪失した場合に、隣接プラントから電源を供給する等の方策の整備。

 AMは、電気事業者の自主的保安措置として整備が進められてきたものであり、運転中の52基への整備が平成14年度までに全て完了、保安院はその内容を精査し、「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書」を公表しているところである。

 平成14年度時点では確率論的安全評価(PSA)は代表炉等(13基)について実施していたが、当院では、代表炉等以外の全ての原子炉施設についても炉心及び格納容器の健全性に関するPSAを実施し、その結果を公開することは情報公開や安全確保の説明の観点から重要であるとの認識のもと、電気事業者に対して残りの原子炉施設に関するPSAの実施を要請していた。


PSA手法

 炉心及び格納容器の健全性に関する確率論的安全評価(PSA)について、各電気事業者及び原子力安全基盤機構が準拠している評価手法についてまとめた結果を以下に示す。

(1)炉心の健全性に関するPSA

 炉心の健全性に関するPSA(レベル1PSA)の実施手順については、電気事業者および原子力安全基盤機構ともに、原子力安全研究協会が発行している確率論的安全評価(レベル1PSA、内的事象)実施手順書に準拠している。

(2)格納容器の健全性に関するPSA

 格納容器の健全性に関するPSA(レベル2PSA)の実施手順については、電気事業者及び原子力安全基盤機構共に、原子力安全研究協会が発行している確率論的安全評価(レベル2PSA、内的事象)実施手順書に準拠している。

(3)機器故障率関連データについて

 機器の故障率については、データの整合性から平成14年度におけるアクシデントマネジメントの整備結果に関する報告で用いた機器の故障率のデータと同じものを用いている。


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