[原子力産業新聞] 2004年12月16日 第2264号 <4面>

[レポート] 足元を固め、未来を展望する

2004年の日本の原子力界は、2つの点で記憶される年となろう。第一は美浜発電所3号機2次系での死傷事故であり、第2には再処理・プルトニウムリサイクル路線が原子力政策の柱と再確認されたことである。

我々原子力界に働くものは、これまで運転中の原子力発電所で死亡事故が起こらなかったことを誇りとし、「最も安全なエネルギー源」である原子力発電に自信を持っていた。しかし8月9日に美浜3号機で起こった不幸な事故は、この誇りと自信を根底から揺るがす、まさに痛恨事であった。事故の原因となった配管の減肉現象は、原子力のみならず火力発電所でも見つかっており、配管が破裂するまで長年処置が取られてこなかったかった原因には、会社と発電所の経営管理問題、技術者の「マイプラント」意識の欠如など、奥深いものがあろう。年末にあたって、亡くられた5人の方々のご冥福と、負傷された方々の1日も早い回復をお祈りするとともに、再発防止に全力をあげることを誓いたい。

再処理・リサイクル路線を確認

11月12日、新しい原子力開発利用長期計画をまとめる新計画策定会議の場において、再処理とプルトニウム・リサイクルを核燃料サイクル政策の基本とすることが再確認された。昨年10月、資源エネルギー調査会電気事業分科会の下に核燃料サイクル・バックエンドに関する「コスト等小委員会」を設置、バックエンドコストの全容を明らかにし、さらに今年6月、電気事業分科会の下に作られた制度・措置小委員会において、バックエンドコストの外部積み立て方式と、電力託送のスキームを使った過去の未回収コストの回収方法について合意が得られ、電気事業分科会もこれを了承した。さらに、議論の場を原子力委員会の新計画策定会議に移し、今年8月には技術検討小委員会にて、全量再処理から全量直接処分まで、4つの基本シナリオについてそのコスト等を検討。最終的に再処理路線の優越性が確認され、新計画策定会議は、今後も全量再処理を核燃料サイクル政策の柱とすることで「中間とりまとめ」を行った。

このように日本の核燃料サイクル政策を巡る議論は、1年以上かけて公開で行われた。これは決して容易なプロセスではなかったが、来年4月の電力小売り自由化の拡大と、六ヶ所村再処理施設のウラン試験の開始にあたり、適切な政策的基礎が整えられた。この一連の流れの中で積極的にリーダーシップを発揮してきた近藤駿介・原子力委員長に敬意を表したい。

海外では原子力復活が具体化

海外では、2004年は「原子力ルネッサンス」への動きが具体化した年であった。フィンランドが欧州型加圧水型炉(EPR)の建設を開始、フランスも国家的な議論の末、11年ぶりに原子力発電所の新設を決め、フラマンビルにEPRが建設されることになった。高い経済成長と電力需要の伸びを見せる中国では、国務院が7年ぶりに4基の新設を承認、さらに2基の承認も予想されている。

また米国では、原子力発電所の新規建設をにらんで、電力会社やメーカー等が3つのコンソーシアムを結成、エネルギー省(DOE)も、早期サイト承認(ESP)取得に向け、これらのグループに資金援助を行うことを決めた。また、ウェスチングハウス社の改良型PWRであるAP−1000に原子力規制委員会(NRC)が設計承認を発給、中国での建設が有力視されている。

日本では今年、敦賀3、4号機と島根3号機の合計3基が建設準備工事を開始、再処理工場もウラン試験開始に向けて最終調整を行うなど、諸外国に比べて順調な動きを見せている。日本原子力産業会議も、原子力の復権と今後50年間を見据え、「向こう10年に何をすべきか」、「2050年のビジョンとロードマップ」など、提言を行った。

2004年はまた、核不拡散の要となっている核不拡散条約(NPT)体制にほころびの目立った年でもあった。ますます深まるイランの核開発疑惑、韓国原研で明らかになった保障措置協定違反の濃縮、再処理、転換実験など、NPT加盟国での動揺がそれを象徴している。また、北朝鮮の核開発を巡る状況も膠着の色を強めている。

しかし2003年12月、電撃的に核兵器開発の放棄を宣言したリビアは、今年中に保障措置追加議定書に調印、包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准するなど、国際社会との協調の姿勢を強め、米国と欧州もリビアに対する経済制裁を撤廃、国際社会に迎え入れる姿勢で応じている。これは、核開発の放棄が国の安全保障を改善し、経済発展につながる実例として注目される。また、追加議定書の普遍化による保障措置の強化、核燃料サイクル施設の国際化に向けた動きなど、核不拡散体制立て直しにも注目すべき動きが見られた1年であった。


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