[原子力産業新聞] 2005年1月27日 第2268号 <3面>

[寄稿] ―原子力事故の教訓(下)― 信頼回復に向けて

安全文化 発電所の作業員は、自分の職場で安全性に関わる問題の可能性に気づいた場合、迷うことなく懸念の声を上げることができるだろこのような米国の経験をふまえた上で、日本の状況を遠くから見ていて、指摘すべきいくつかの点を以下に述べたいと思う。うか。そうすることで、上司に対する忠誠心を疑われたり、報復の可能性を恐れたり、あるいは極端な場合には解雇されて安定した所得を失うということにはならないだろうか。米国では、こういった「内部告発者」を保護する法律がある。

発電所の作業員は、何よりも安全性を重視するよう強く奨励されており、もし懸念される点がある場合は、解雇を恐れることなく会社の上層部や政府規制当局に通報できるという点を、国民に納得してもらうための対策がとられれば、それは信頼回復への第一歩である。

機器の老朽化 美浜3号機で破断した炭素鋼製蒸気配管は、もともと肉厚10mmだったものが、腐食が進んだ結果、事故当時には1.4mmしかなかったと報告されている。この配管は、27年前に設置されて以来、一度も交換されていなかった。このことから、発電所の管理者が行なう検査や、規制当局による安全性の監視体制について、どのような印象が持たれるだろうか。もし発電所の非原子力部分の機器が適切に検査されていないのならば、原子力部分はどうなっているのだと疑問をもたれても致し方ないだろう。

もし原子力発電所の運転者および規制者が、52か所すべての原子力発電所にある老朽化した機器の徹底検査や、必要な場合にはそれらを早急に交換することを、国民によくわかる形で実施したならば、信頼性の回復へ向けて大きく前進することができるだろう。

政府による規制 もし政府が、より多くの良く訓練を受けた規制官や、財政的に豊かな安全研究機関を有し、決定権を持つ独立した規制機関を持つことができれば、信頼性の回復につながる。こういったことを可能にし、資源を有効利用するためにも、現在の2つの規制機関を1つに統合したらどうだろうか。 情報公開 過去において国民の信頼が失われた大きな理由は、一部の会社が問題を隠したり、ひどい場合には政府や国民に対して、事故が起こってもそれをごまかそうとしたことにある。

ウィリアム・ビーチャー氏

コロンビア大学院卒。ウォールストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズなどで記者。1983年に国内報道部門でピューリツァー賞受賞。1993〜2003年まで米原子力規制委員会(NRC)広報部長。現在はディレンシュナイダー・グループ代表。


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