[原子力産業新聞] 2005年3月24日 第2276号 <4面>

[原子力委員会] 04年版 原子力白書の概要

10日付号既報の通り、原子力委員会はこのほど、2004年版の原子力白書を取りまとめ、4日の閣議に報告した。今号では、重要政策を示した第1章と、「国内外の原子力開発利用の状況としてと」題し、各分野の最近の動向を示した第2章の本編に加え、第2部資料編で構成されている同白書の中から、原子力委として直面する最重要政策を掲げた第1章の概要を紹介する。

第1章 国内外の理解と信頼の確保に向けて

原子力に関する諸活動は、巨大で総合的なシステムに基づくものが多く、活動期間が他分野に比べて長いなどの特徴を有していることから、その遂行には、目的が達成できない可能性など様々なリスクが伴う。そこで、原子力に関する諸活動の推進に当たっては、こうしたリスク管理を確実に実施することが求められる。

同時に、国民の理解と信頼を得るためには、こうしたリスクとその管理のあり方について国民に説明し、多様な意見に耳を傾け、対話を重ねて理解を得つつ進めていく必要がある。

また、国際社会においては核不拡散の観点から原子力の平和的利用のあり方について引き続き活発な議論が展開されており、我が国の原子力の平和的利用について、国際社会の理解を得る重要性も増している。

そこで、第1章においては、主にこの1年間の原子力関係の動きの中で、事故等の発生を受けて政府と民間等が行ってきた信頼回復に向けた取組、新たな取組を行うに際して行ってきた理解と信頼を得るための活動、政府がその政策について国内外の理解と信頼を得るべく行ってきた活動を要約し、最後に今後の課題を示すこととする。

1.信頼回復に向けて

我が国の原子力利用の現場においては、関西電力株浜発電所3号機事故等、原子力活動による有用性とそれに伴うリスクに関する国民、社会の認識に大きな影響を与える事故、事件が発生してきている。

こうした事象が発生した場合、当該活動を再開するためには、事業者や国は、まず、事実を正確に分析して国民に伝え、社会に誤解や不安・憶測を招かないようにし、発生原因を究明・検証し、必要十分な再発防止対策を国民の意見を聴きつつ立案して、これを国民に説明して誠実に実施することが重要である。 

(略)

2.新たな事業実施のための信頼構築

近年、六ヶ所再処理工場の試験運転の開始など新たな取組が見られる。このような事業が円滑に実施できるためには、その活動が原子力長期計画を踏まえているものであることや、その担い手がそれに相応しい能力を有することについて国民の理解を得ることが重要であり、それは当事者が当該事業に関して所要のリスクマネジメント能力を持っていることについて社会との間で相互理解が成立することによって醸成されることから、両者の間でリスクコミュニケーションを継続しなければならない。

(1)六ヶ所再処理工場の操業に向けて

平成5年4月に建設が開始された六ヶ所再処理工場は、現在、建設工事の最終段階に入っており、平成13年4月から「通水作動試験」を実施し、平成14年11月から「化学試験」を開始した。平成16年12月から「ウラン試験」を開始し、現在の予定では「アクティブ試験」を平成17年12月から実施し、平成18年7月に操業を開始することとなっている。

@品質保証能力に対する信頼の構築

(略)

Aウラン試験に関するリスクコミュニケーション活動

(略)

(2)プルサーマルの推進に向けて

@技術的成立性と規制環境の整備

(略)

A原子力政策における位置付けの明確化

(略)

B事業者等の事業推進側の取組

(略)

Cプルサーマル実施に向けての新たな胎動

(略)

(3)使用済燃料の中間貯蔵施設の立地に向けて

@政策上の位置付けと法令等の整備

(略)

A事業者の取組

(略)

(4)高レベル放射性廃棄物処分に向けて

@政策上の位置付けと法令等の整備

(略)

A処分実施主体等の取組

(略)

3.国際社会の理解と信頼の確保

近年、北朝鮮やイランにおける核関連活動、パキスタンのカーン博士を中心とする「核拡散の地下ネットワーク」の存在等の問題等が明らかとなる中で、国際社会においては原子力の平和的利用と核不拡散について活発な議論が惹起されており、核兵器を保有していない我が国の原子力の平和的利用について、国際的理解を求める必要性は一層増している。また我が国は、国際社会における原子力の平和的利用の促進と核不拡散のため、国際機関等が行っている原子力安全等に係る取組に積極的に貢献している。

(略)

4.新たな原子力長期計画の策定等に向けた原子力委員会の取組

原子力委員会は、原子力政策に係る決定を行うに当たっては、専門家と一般市民の政策提案や意見に広く耳を傾け、そこから国民が共有するべき原則と目標を見出し、提案された政策選択肢をできるだけ定量的に評価して、政策選択の根拠の明確化を図るべきであると考える。同時に、原子力研究開発利用を進めるにあたっては、その実施者はリスク管理を行い、その管理活動の妥当性の説明責任を果たすべきと考え、委員会自身も、最新の知見と情勢を踏まえて、政策効果を評価し、政策とその体系を見直す活動を不断に行っていく。

(1)核燃料サイクル政策に係る取組

(略)

(2)市民参加懇談会

(略)

(3)新たな原子力長期計画の策定に向けて

原子力委員会は、原子力基本法の方針に係る国の施策を計画的に遂行するために、原子力長期計画を策定してきており、昭和31年に最初の原子力長期計画を策定して以来、概ね5年毎にこれまで合計9回にわたって策定してきた。現行の原子力長期計画は、平成12年11月に策定されたものであり、平成17年11月で5年を迎えることになる。

@策定準備

原子力委員会は、平成16年1月にとりまとめた「年頭に当たっての所信」において、新たな原子力長期計画のあり方やその検討の進め方を審議・決定するための準備活動を開始することを表明した。その一環として、各界各層から幅広く提案、意見を伺う場である「長計についてご意見を聴く会」を開催することとし、平成16年1月に第1回を開催して以降、同年6月までに計15回に亘り開催した。また、広く国民を対象に長計に関する「意見募集」を実施し、「第7回市民参加懇談会」を開催した。こうしていただいた意見は、原子力委員会定例会に報告されると共に「第1回新計画策定会議」に資料として提出された。

A新計画策定会議の設置と策定への着手

原子力委員会は、新たな原子力長期計画策定に関して各界各層から提案・意見を伺ってきた結果、新たな原子力長期計画を、平成17年中に取りまとめることを目指して検討を開始することが適当と判断し、このことを平成16年6月に原子力委員会決定した。

この決定においては、「新計画策定会議」を原子力委員会に設置し、公開で議論を行うこととした。「新計画策定会議」は、原子力長期計画で検討すべき項目のうち、核燃料サイクル政策に係る評価から着手することとし、この検討に当たっては、全量再処理、部分再処理、全量直接処分、当面貯蔵の4つの基本シナリオを仮想的に設定し、安全の確保、経済性等の10の視点から総合的な評価を実施し、シナリオ間の比較を行うこととした。

また、「新計画策定会議」の開催中においても「長計についてご意見を聴く会」を計33回にわたり、東京、青森、名古屋において開催した。また策定会議において核燃料サイクル政策についての議論を行っていることを踏まえて、これをテーマに「第9回市民参加懇談会」を大阪で開催した。

こうした総合的評価の積み重ねの結果として、平成16年11月には「核燃料サイクル政策についての中間とりまとめ」の取りまとめを行った。

今後は原子力施設に係る安全確保に関する評価が行われ、この議論をとりまとめた後、「原子力発電」、「高速増殖炉開発」等について順次検討を進めていく予定である。

なお、原子力委員会は、今後とも国民各層から幅広く意見を伺いつつ作業を進め、平成17年中には全体のとりまとめを行う予定である。

5.これからの理解と信頼の確保について

(1)理解と信頼の確保に向けた関係者の取組について

原子力の研究、開発及び利用に関わる諸活動は、新しい知見を生み出すための研究開発活動から、市場原理の下で繰り広げられる産業活動、国としての政策選択の場、そして国際政治経済の場に至る様々なレベルで展開される。原子力政策は、こうした原子力利用に関わる諸活動に期待される社会的機能がそれぞれのレベルにおいて実際にその役割を果たすようにするためのプログラムとも言える。

このプログラムが実際に成果を生み出すためには、原子力に関わる活動に期待される社会的機能が必要かつ有効であることだけではなく、このような原子力に関わる活動が、社会に歴史的に形成されてきた制度や慣行からみて受け入れ可能であるということが社会的了解となることが必要である。

また、こうした原子力に関わる活動において事故・故障が発生した場合や不正行為があった場合には、まず、その活動に携わっていた者が、その事実を正確かつ迅速に公表するとともに、責任の所在を明らかにした上で、本来はそのようなことが起こらないことを前提として整備されていたはずの活動に関わる運営システムを真摯に見直して、再発防止対策を確立することが求められる。その上で、これを地域住民、自治体をはじめとしてその活動に関係する者に説明することによって、活動に携わる者が信頼に足る担い手であるとの社会的了解を新たに作り出していかねばならない。

政府関係機関及び民間事業者等は、前節までに見るように、こうした了解を作り出すべく、多面的な広聴・広報活動を重ねてきている。

(略)

(2)今後の課題

最近の内外情勢を踏まえれば、今後のこうした取組に当たっては、次の諸点に配慮すべきである。

第一、原子力活動を行うには安全の確保が大前提であることを改めて確認するべきである。運転中の原子力発電所で多数の死傷者を伴う重大な労働災害が発生したことにより、人々は心に深い傷を負っている。先年来その回復が求められ、様々な取組が行われてきた原子力の研究・開発・利用の活動に対する国民の信頼はなお回復していない。

従って、亡くなられた方に対する哀悼の念と関係するご家族の方に対するお見舞いの気持ちを忘れず、社会的了解を得るべき原子力の研究・開発・利用の活動において安全の確保が最優先されているかどうかをいま一度自省することが必要である。

第2、原子力の研究開発利用活動は、エネルギー安全保障や地球温暖化対策という地球規模の課題の解決に貢献できるところが少なくないが、これらの課題に対して原子力の研究開発利用活動の効果が的確に発揮されるためには、政府はエネルギー技術選択に際して狭い意味の経済性が重視される市場に、これらの課題解決に対する国民の希望が市場条件として的確に反映されるように、適切かつ効果的な研究開発、規制、誘導の施策を講ずることが必要となる。

例えば、すでに見てきたように、原子力活動が社会に存在し得るためにはその安全確保活動や対策が信頼されるものであることが必須であるが、こうした市場でその活動が持続できるためには、安全規制の仕組みが政府による明確な安全確保の原則に基づく効果的な規制監査活動の下で、事業者が効果的な品質保証体制を確立して創意工夫を生かしたリスク管理活動を展開できるようになっていることが望まれる。

第3、前節までの記述に明らかなように、原子力活動を進める者が信頼に足るとの社会的了解を作り出し、原子力活動の現場となる地域社会に原子力活動が受け入れられていくためには、安全確保を大前提とした上で、当事者である活動の担い手による不断の広聴・広報活動が不可欠であるが、地域社会の意見の取りまとめには地方公共団体が大きな役割を果たしている現実がある。

地方分権を巡る議論が進展しているが、そうした状況の下で公益の実現に資する原子力活動が円滑に行われるためには、エネルギー問題は長期にわたる取組を要する公益に係わる重大な課題であることを踏まえ、当該活動の担い手と地域社会との相互理解に向けて、原子力政策を推進する国と地方公共団体がそれぞれの役割を認識し、協調していくことが望ましい。そこで、関係者には、原子力活動の存立に必須のこの協調関係を、新しい環境においても効果的なものとして維持していくべく、取組を強化していくことが必要である。

なお、米国における同時多発テロ発生等を契機とした近年の国際的な核物質防護強化の動きに対応して原子力施設や核物質の防護体制の強化に努めることが引き続き必要である。

併せて、原子力施設や核燃料物質等に係るテロ対策についても、武力攻撃事態への対処の際の態勢整備の一環として、危険性の高い放射線源の輸出入管理についてのG8による合意やIAEAが制定した指針が求める防護指針等を踏まえて、国や事業者において更に整備を進めていくべきである。

この場合、これらの措置の一環として、枢要な機微情報を非公開にすることが国際的に求められていることから、その制度が整備されるべきであるが、他方で安全確保に係る国民との相互理解を図る観点から、その制度の意義や非公開とされる情報があることについては、それを非公開とすることが安全の確保上有益であることを国民に十分説明していくことが重要である。


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