[原子力産業新聞] 2005年4月14日 第2279号 <3面>

[原研] 重イオン1個照射技術を開発 特定細胞を狙い撃ち

 日本原子力研究所はこのほど、「細胞を狙って重イオンを1個ずつ照射し、その影響を長時間追跡観察する実験システム」を、世界で初めて開発したと発表した。

 重イオンは、X線やγ線よりも生物に対する効果が大きいため突然変異誘発の効率が高く、また得られる変異も異なることから、効果的ながん治療法および、従来の放射線育種の限界を突き破る新たなイオンビーム育種(植物の品種改良)に向けた研究開発が繰り広げられてはいるものの、現在のところ、特定の細胞のみに重イオン照射した影響を細胞レベルで正確に調べ、そのメカニズムを解析することができなかった。

 今回原研が開発したのは、標的細胞の位置を自動的に認識し、重イオンマイクロビームを用いて1つの細胞に1個の重イオンを照射し、細胞のどこに重イオンがヒットしたか、その正確な位置を検出するとともに、細胞に対する照射の影響を長時間追跡観察できる実験システム。原研ではこのシステムを用いて、顕微鏡で観察しながら特定の細胞の核や細胞質を狙って重イオンを照射し、その後培養を継続しながら照射した細胞の観察を続け、@細胞核にイオン一個を照射しただけで細胞の増殖が強く抑制されることA重イオンを照射した細胞から離れたところにある照射されていない細胞でも培養液を介して細胞の増殖が抑制されること(バイスタンダー効果)――を、初めて見出したとしている。

 なお原研では今後、細胞の核あるいは細胞質など細胞内の照射箇所と細胞が示す反応との関係を解明するとともに、放射線が当たったという情報が周囲に伝わり、照射されていない細胞も反応を示すバイスタンダー効果の機構を遺伝子レベルで解明する方針。これにより、低線量の放射線に対する生体反応メカニズムの解明や、少ない量の照射で効く新しいがん治療法の開発、さらにはイオン照射で誘発される大きな突然変異を利用したイオンビーム育種技術の高度化など、「重イオンビームを利用した生命科学・医学・バイオ工学の飛躍的な進展が期待される」としている。


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