[原子力産業新聞] 2005年4月28日 第2281号 <4面>

[第38回原産年次大会] プレナリーセッション

 大会初日午後に行われたプレナリーセッション「柏崎・刈羽からのメッセージ──地域社会と環境・エネルギー・私たちの暮らし」第一部「講演の部」では、小島陽・長岡技術科学大学学長を議長に、4氏が講演した。

「我が国の原子力政策と地域社会」 近藤駿介・原子力委員長

 原子力政策は、原子力エネルギー技術の利用に係る規制のあり方を示す安全政策や核不拡散政策、その利用を誘導する施策のあり方を示す産業政策や立地政策、そして実用技術の開発に係る研究開発政策などから成り立っている。

 原子力利用を持続させていくためには、短期的、中期的、長期的な取り組みを並行して実施していく必要がある。まず、現在の技術資産を最大限に活用し、できるだけ長く有効活用する短期的取り組み、また、既存技術が陳腐化する時期に備えて、交替する実用技術および立地・建設の準備を行う中期的取り組み、さらには、革新的な次世代の原子力技術の開発を推進していく長期的取り組みだ。

 こうした原子力の研究開発や利用活動には、地域住民の声を立地や災害対策のあり方に反映していくことが今後ますます重要になる。住民と事業者、安全規制当局が安全確保や安全水準に対する認識を共有する努力を継続していくことが必要だ。また、その活動と地域社会の間で生じる経済的および経済外関係が地域の都市計画や将来ビジョンに適切に位置づけられるよう、互いに共生の観点から創造的に追求していくことが重要である。

「私たちが求める『安全』とは何か」品田宏夫・刈羽村長

 原子力発電所の立地点である地元では、電力(エネルギー)の需要供給に対する考え方の違いの中で、長い間、「安全・危険」、「賛成・反対」という安全議論がなされてきた。

 消費地(首都圏)の人々はこうした議論に今まで参加してきただろうか。国や消費地が立地点の苦労に初めて目を向けたのは、2001年に実施されたプルサーマルを巡る住民投票の時ではなかっただろうか。

 消費地の「安全議論」とは、「エネルギー(電気)の不足、停電という危機からの回避」であると思う。昨年の夏、電力危機が現実の問題として首都圏にふりかかった際、安全確保というテーマで相当な議論が起こった。危機がまさに自分の身に迫るような状況にならないとわからないのだろうかという思いがある。

 「消費地が求める安全を確保するためには、地元の安全を直接考えてもらわなくては」と言い続けてきた。国の原子力政策の考え方の根本的な部分が、消費地に充分知られていないことが、地元と消費地の議論を乖離させ、今日まで全体的な「安全、安心」を確保できてこなかった原因の一つだ。日本のエネルギー政策全体に目を向け、安全について地元と消費地が互いに取り組むことが大切だ。地元の苦労や現実を多くの人に知ってほしい。そして、「安全確保のために、消費地の皆さんは何ができるのですか?」と問いかけたい。消費地の注目がここに集まれば、地元の安全確保は確実に進歩すると考える。

「原子力立地地域の報道について」 小町孝夫・新潟日報論説委員

 新潟日報は創刊以来、柏崎市に支局を置き、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の誘致時代から原子力関連報道を続けている。

 私は02年4月から3年間、柏崎支局に勤務し、原子力報道に携わった。01年のプルサーマル計画をめぐる住民投票をはじめ、生涯学習センターの不正工事、東電のトラブル隠し、「使用済み核燃料税」の導入など、在任中に、日本の原子力政策を左右するような事件が相次いだ。

 そうした中、報道をする上で基本にした点は、@原発の安全問題については細大漏らさず伝えるA原発と地域社会との関わりについて情報提供する――の二つに集約できる。

 新聞の使命はまず、住民に安全関連情報を細かく伝えることが重要だ。さらに報道を通じて東電も安全に対する緊張感を高めるのではないかと期待を込めながら報道した。

 また、原発は地域に活力をもたらしたが、年を経るにつれて原発の持つ経済波及効果が薄れてしまった。このような変化は柏崎刈羽地域にさまざまなひずみを生んでいる。

 原発が行政や地域経済に与える影響は大きい。原発が地域社会の中で果たしている役割を検証することは、地元で最大読者を持つ新聞の重要な役割だ。

「原子力発電所及びそれを取り巻く地域と大学との連携」 田村詔生・新潟大学大学院自然科学研究科教授

 大学と原子力発電所との連携は、直接的なもののみならず、地域自治体・住民を通じた間接的連携が存在する。

 新潟大大学院自然科学研究科では、柏崎刈羽地域に見られる先端的科学技術及び、それらを取り巻く環境の問題に関する強い関心を前向きに捉え、地域及び産業と大学の連携の核となるべき拠点として、同研究科附属の「地域連携先端医療・科学センター」を設置した。

 センターは、@発電所からの温排水を利用して新機能農産物を開発する「バイオドームによる農業研究拠点」A世界最高能力のニュートリノ源を利用した「ニュートリノ科学の研究」B自然科学に関する住民向け公開講座や講演会等を行う「先端医療・科学に関する情報発信基地」――を三本柱として、地域と発電所との連携を図りつつ、研究活動を行っていく。また同研究科には、来年度から、東電による寄付口座「地球温暖化地域学」を設置。温暖化問題の解決に向けた研究の一層の活性化を図る。

 新潟大では同センターを窓口として、発電所や柏崎市、刈羽村と、今後一層の連携を実現していきたい。


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