[原子力産業新聞] 2005年4月28日 第2281号 <5面>

[第38回原産年次大会] セッション1

 大会2日目午後には、セッション一「原子力発電所の安全と管理を問い直す──『マイプラント意識』確立への課題」が行われた。今後の電力需要増の鈍化等に伴う新規建設の減少、運転開始後30年以上を経過する炉の増加といった状況下にあるわが国の軽水炉だが、より安全で安定した原子力発電の実現のため、原子力関係者には発電所の保守・管理に対し、一層経営資源を投入する必要性が生じている。このセッションでは、海外プラントでの運転保守・寿命管理の良好事例を参考にしつつ、事業者の安全文化とリスク意識、現場職員の保安活動、作業直営化の動き等を含めた今後の原子力発電所保修システムの最適化などを議論し、安全確保を大前提とした既存の原子力発電所の効率的利用方策はいかにあるべきかを、議長に班目春樹・東京大学大学院教授を、またパネリストに鈴木英昭・日本原子力発電常務取締役、高島正盛・全国電力関連産業労働組合総連合社会・産業政策局部長、武黒一郎・東京電力常務取締役原子力・立地本部副本部長、橋本哲夫・新潟大学教授、新潟県原子力発電所周辺環境監視評価会議委員、山下弘二・経済産業省原子力安全・保安院首席統括安全審査官をそれぞれ迎え、探っていく。

基調講演「原子力発電所の安全と運転管理はいかにあるべきか」 石川迪夫・日本原子力技術協会理事長、元北海道大学教授

 米の原子力発電は、現在非常に好調であり、欧州においても、「底打ち感」がある。それに対して日本は、例えば放射線業務従事者の被ばく量ひとつを見ても、海外ではその量が減少しているのに対して日本では横ばいが続いている。

 それが何故かという理由は、「『原子力技術の大きさに見合った運転管理をしていない』し、「させてもらっていない』」ことにある。

 日本と世界の間の大きな相違点は、日本の規制は、「今だに規制の観点が『物をつくる』にあり、運転管理に向いていない」という点にある。

 また日本には火力発電に根ざした定期検査等があり、この規制の基礎となる根本技術が原子力に根ざす物でないため限界があり、世界に追い越される結果を招いた。

 さらに、今行われている世界の規制の主体は、運転保守に関しては、総合的な安全実績に見合った合理的規制の実施が行われている。しかし日本は、相続いた事故不祥事により、規制強化を行わざるをえない状況が続き、独り世界と異なる方向での運転管理規制が行われている。我々が今やるべきことは、しっかりとやっているという所を見せて、なるべく早く規制緩和を進めていくことだ。

各パネリストの意見から

山下氏 JCO事故や東電問題などを踏まえ、保安院では、安全規制の抜本的見直しを進めて来た。

 保安院では、真に自立した原子力発電所の保守・管理がなされることを誘導するような規制の導入を目指している。

鈴木氏 原電では経営方針として、「安全第一」を全てに優先し、全員参加の安全運動を展開することとしている。このためには、経営を含めた全社員の安全に対する意識レベルの向上がまず必要であり、さらに原子力発電に従事する者としては、技術力の向上が原子力発電所の安全な運転・保守には必須であると考え、これを「安全達成の二本柱」としている。

 これら取り組みが当社の技術力向上に大きく寄与すると考えており、また自分の設備を自ら診断、測定、評価し、手入れを行い、次の点検計画を考えるということで、設備への愛着、真剣かつ責任感を持った保守につながると考えている。

武黒氏 「自己責任による保安」体制の確立に向けての最重要課題は、「現場中心に徹すること」であり、業務における一人ひとりの当事者としての責任感と能力を強化し、現場に潜在する問題をしっかり捕捉し、迅速に的確な行動を起こすことが肝要である。これによってPDCAを廻し、発電所の安全と品質を確保し、向上させることが可能となる。

 そのために、東京電力では、保全体制の見直しなど、様々な改善活動を行って来ている。

高島氏 昨今の事故などを受け、「定期事業者検査制度」が導入されるなど、様々な原子力安全規制が強化されているが、規制の導入に伴い、検査対象が重複せざるを得ないという「検査の重複による非効率性」といった新たな現場への影響が出ている。また妥当性と納得感のない非合理的規制対応業務はマニュアル化し、さらには規制対応における形骸化を産むことから、安全文化崩壊につながる可能性もある。

 より良い規制の構築には、規制側と被規制側とで意見交換を実施することが大切であり、また規制側が現場労働者と被規制現場の実情を踏まえる中で、規制制度運用やルールについて意見交換し、「妥当性と納得感のある規制」とすることが大切だ。

橋本氏 「マイプラント」から「ourプラントin地元」とすべく、この十年間地元大学人として、地域住民への原子力科学理解へ寄与できることは何かを模索してきた。

 昔から「男の子と杉の木は育たない」と言われる新潟だが、男の子も女の子も、そして原子力産業も育てて行きたいと考えている。


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