[原子力産業新聞] 2005年4月28日 第2281号 <6面>

[第38回原産年次大会] セッション2

 セッション2は「躍進するアジアの将来―エネルギー需要の増加と原子力発電の拡大」がテーマ。アジアでのエネルギー安定供給には原子力発電開発が必要との共通認識のもと、日本の国際協力や国際展開のあり方とともに中国、韓国、ベトナムなどからは原子力政策が報告された。議長は神田啓治・エネルギー政策研究所所長。パネリストは町末男・原子力委員、藤冨正晴・日本エネルギー経済研究所アジア太平洋エネルギー研究センター所長、渡邉その子・資源エネルギー庁国際原子力担当企画官、辛鋒・中国核工業集団公司核電局総合処副処長、伊藤隆彦・中部電力副社長、全碩柱・韓国水力原子力事業処長、庭野征夫・日本電機工業会原子力政策委員長、チャン・チー・タイン・ベトナム電力公社エネルギー研究所主任研究員の8名。

▽神田氏「我が国の原子力国際展開」

 原産は昨年11月に「原子力国際展開懇話会」を立ち上げた。産業界、学識経験者など29名の委員とともに経産省、外務省など関係省庁から8名のオブザーバーも参加。今月11日の原子力委員会・新計画策定会議の国際問題検討WG会合に提言を報告した。我が国技術が世界のエネルギー供給の安定や温暖化対策に寄与することは国際的責務などの基本理念を掲げ、人材の維持などその戦略的重要性を指摘、国策上の位置付け、関係機関の効率的調整など10項目を提言した。

▽町氏「躍進するアジアの将来」

 IMFは2006年も中国、インド、ASEANなどの経済成長は5%以上と予測するが、化石燃料が少ないアジアが発展する上でエネルギー資源は制約要因になる。我が国は、文科省のアジア原子力研究交流制度、経産省と民間による原子力発電研修・セミナー、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)などによりアジアにおける原子力利用協力を進めている。FNCAは今月コーディネーター会合を開催したが、中国、韓国、インドネシア、日本などから原子力発電をCDMに含めるべきとの意見が出された。

▽藤冨氏「アジアのエネルギー」

 旺盛な需要により、アジアの石油輸入依存度は今後20年間で現在の6割から8割に急増することが予想される。併せて電力需要も大きく伸び、特に中国は今後年平均5.6%の増大を続けると想定する。需要増を背景にエネルギー価格の上昇圧力は今後とも続くと見ている。2001年におけるアジアの電源構成比は石炭が50%以上、原子力は石炭に次いで17%だが、この原子力を今後どの程度伸ばせるかが安定供給の上でポイントになる。

▽渡邉氏「日本のエネルギー政策における原子力発電」

 エネルギー政策の目指す方向は「原子力か新エネか」ではなく「原子力も新エネも」であり、エネルギーの安定供給及び地球環境問題への対応を考えると、2030年以降も原子力に現在の水準(発電電力量の3〜4割)かそれ以上の役割を期待することが適切と考える。原子力産業の大きな課題は、早ければ2030年頃に訪れる大規模建設時代までの間、原子力産業の技術・安全・人材の各方面について、その必要な厚みを維持し得るかである。国際展開はこの点からも重要と考える。

▽辛氏「中国の原子力発電」

 2004年における中国の総発電電力量は前年比14.8%増の2兆1890億kWhに達したが、国の経済成長に見合うだけの供給には至っておらず、昨年はかなりの都市で供給不足の問題が発生した。現在、中国の原子力発電所は11基で、このうち九基が運転中、2基が建設中である。先頃、政府は原子力発電を「適度に開発する」方針から「積極的に開発する」に変更し、極めて意欲的な計画を立てている。2020年までに合計4000万kWの原子力発電所を建設するもので、海外からのプラント輸入と100万kW級プラントの国内生産も視野に入れている。

▽伊藤氏「原子力産業のグローバリゼーション」

 国内の原子力発電は建設から保守の時代に入っているが、国際展開は建設技術の空洞化回避と産業界の活性化の観点で重要である。電気事業者も建設プロジェクトマネジメント、運転・保守管理、放射線・廃棄物管理など多くのノウハウを蓄積、これまでも専門家の派遣や研修生の受入れなどを実施してきている。今後の国際展開では海外からの評価獲得、相手国の事情を踏まえたカスタマイズ対応などが必要と考えるが、電気事業者においてはWANO東京センターを中心にアジア地域におけるパフォーマンス向上に努める。

▽全氏「韓国原子力発電の現状と見通し」

 韓国水力原子力(株)は、最近商業運転を開始した蔚珍5、6号機を含めて運転中の原子炉を20基保有している。昨年末の時点で原子力の発電容量構成比は約28%、発電量構成比は約38%で、昨年の19基の年間平均設備利用率は91%と好調を維持している。

 長期電力開発計画では2017年までに現在建設中または計画中の六基を含め、8基の新設を予定する。この期間中に安全性と経済性を高めた電気出力百四十万kWのAPR1400を四基建設する。同機の開発により、当社の技術評価は世界的に一層高まっており、アジア諸国との協力を拡大したい。

▽庭野氏「原子力技術と国際貢献」

 我が国の原子力技術は世界に先駆けて改良型軽水炉ABWRとAPWRの開発・実証を完了させた。世界最高レベルの安全性、信頼性、運転性を達成するとともに経済性も優れた原子炉である。我が国のプラントメーカーは厳格な品質管理と高いプロジェクトマネージメントにより確実に短工期で建設する技術を蓄積してきた。

 今後、本格的に国際展開を進める上で改良型軽水炉の国際規格への適合や信頼性と経済性の更なる向上を図るとともに、供給先のニーズに適合する中小型、分散型などを開発する。特にアジア諸国に対しては核不拡散、平和利用の担保などの前提要件を充足させる段階からの国レベルでの協力・支援をお願いしたい。

▽チャン氏「ベトナムの原子力発電開発と国際協力」

 ベトナムの原子力委員会は現在、原子力発電に関するプレ・フィージビリティー・スタディーを実施中で、この結果を工業省を通して政府に上げる。核エネルギー利用のための長期戦略も策定し、科学技術省に上げており、これも今後政府に上げる予定。また、核エネルギーの利用に関する法制度の整備に関しては、第一次草案が出来上がり、今年と来年で整備し、2007年の適用を目指している。 現在、原子力発電所の建設候補地は3か所である。

 ベトナムの電力量需要は現在、年間約50TWhだが、2020年には200TWhを上回ると予想しており、この時点で原子力は14〜28TWhと想定している。国際協力は日本、韓国、フランス、ロシアなど多くの国と実施しており、ベトナムは今後ともこうした関係を強化したいと考えている。


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