[原子力産業新聞] 2005年7月14日 第2291号 <4面>

[政府] 05年版 科学技術白書の要旨(1)

 6月23日号既報の通り、政府は6月10日、2004年度において科学技術の振興に関して講じた施策についての報告である、「科学技術の振興に関する年次報告(05年版科学技術白書)」を閣議決定した。本紙では2回にわたり、その中から、第1部第3章第2節「科学技術に期待される役割」、同第3節「我が国の科学技術の振興に向けて」および、第3部第2章「科学技術の重点化戦略」第2節5「エネルギー分野」の中から、「原子力の研究、開発および利用について」を紹介する。

第2節 科学技術に期待される役割

1 新たな価値の創造(知的・文化的価値の創造)

 科学技術は、知的・文化的価値を創造するものであり、これまでも私たちの宇宙観、物質観、生命観など価値観の形成に少なからぬ影響を与えてきた。知的探究心は人類共通の欲求であり、今後も私たち人類に新たな知をもたらすであろう。

 科学技術によって得られた知は、新しい財・サービスの創出や様々な問題解決に用いられ、そして次の重要な新たな知を生み出すための知的資産(ストック)となっていく。こうした知的資産は、人類共通の財産として活用することが必要であり、同時にこの知的資産は持続的に知を生み出していく源泉となる。

 物質の起源、宇宙の諸現象、生命現象の解明など、新しい法則原理の発見、独創的な理論の構築、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究は、知の創出の基盤を成すものであり、今後とも積極的に推進していく必要がある。

2 経済発展と国際競争力(経済的価値の創出)

 (略)今後我が国を取り巻く情勢は、地球環境問題や資源の枯渇等の制約要因に加え、少子高齢化による労働力人口の減少等非常に厳しいものとなることが予想される。

 一方、世界に目を向けると、グローバリゼーションの進展、BRICs諸国の成長などの大きな変化の中で、我が国の隣国である中国、韓国が日本の競争相手として台頭しつつある。これらの国々では、情報通信産業やバイオ産業のように、先端科学技術の成果に立脚した新産業が経済成長と雇用創出の鍵として重視されるなど、科学技術を経済発展の原動力として捉え、既に積極的な科学技術振興策を展開している。

 このような中、我が国が国際競争力を維持・強化していくことは並大抵のことではない。資源のない我が国にとって、イノベーションが国際競争力確保のための原動力となることは論を待たない。製品の高付加価値化や我が国の優れた技術分野の更なる強化など、科学技術を活用したイノベーションが不可欠である。

 「ソフトパワー」という考え方がある。これは軍事力などのいわゆる「ハードパワー」の対語として用いられているもので、強制や報酬ではなく、知や文化などの魅力によって望む結果を得る能力である。高度に情報化が進展している現在又は将来において、我が国の魅力を海外に発信していくことは極めて重要である。 我が国にはアニメーション、テレビゲームをはじめとした大衆文化、伝統的な工芸・芸術などの日本文化など、誇るべき「ソフトパワー」は数多く存在する。

 高度な科学技術水準を有する我が国が、科学技術により世界の共有財産である知を創出するとともに、連続的なイノベーションを生み出すことによって経済発展を果たしていくことは、強力な「ソフトパワー」となりうるものである。

3 人類社会の持続的発展(社会的・公共的価値の実現)

(多様化・高度化する社会のニーズへの対応)

 社会の成熟に従い、個人や個性がより尊重され、それに伴い国民のライフスタイルや価値観の多様化が一層進むと同時に、物質的な豊かさに加え、精神的な豊かさに対する国民のニーズも多様化高度化していくことが予想される。文化芸術、娯楽等にも科学技術は貢献しうるものであり、これら国民の多種多様な要求に応えていくことが求められる。

 我が国が近い将来確実に直面し、克服しなければならない課題の一つが「高齢社会」への対応である。活力ある社会を形成するためには、単に長生きというだけでなく、生活の質を考慮した健康寿命の延伸が重要な課題となっている。生活習慣病の予防・治療をはじめとした健康寿命延伸に係る研究開発等を着実に進める必要がある。

 一方、社会が複雑化するに従い、テロや自然災害、治安の悪化等の社会的な不安要因の増大とともに、安全・安心な社会の構築が強く求められている。グローバリゼーションの進展による感染症の流行、情報化の進展に伴うコンピュータ犯罪など、社会の複雑化に伴って新たな脅威が生じており、この分野における科学技術への期待は大きく、より一層の貢献が求められている。

(環境保護と経済発展の両立)

 21世紀においては、もはや環境と経済を切り離して考えることは不可能となっている。人類が持続的に発展していくためには、環境を保護・保全しながら同時に経済を発展させる、又は経済の活性化が環境の改善につながるといった環境と経済の両立が不可欠である。

 地球温暖化や大気汚染をはじめとした環境問題は非常に多岐にわたると同時に、国民ひとりひとりが環境に影響を及ぼしている当事者であるという特性から、環境と経済の両立を図るためには、国民各界各層の主体的な参画の下、国民ひとりひとりの「心がけ」のレベルから、環境の価値を積極的に評価する市場の育成や循環型社会の構築に向けた政策誘導など、社会経済システム全体にわたる重層的な取組が求められる。これらの取組のうち、科学技術を積極的に適用した省エネルギーや新エネルギー対策、各種環境保全技術などは不可欠なものとして挙げられる。

 我が国は、これらの分野において以下のような世界最先端の技術を有している。

ーー世界最高の省資源、省エネ水準を達成した家電製品

ーー世界最先端の技術を有するハイブリッド車をはじめとする低公害車

ーー世界一の導入量を誇る太陽光発電

ーー循環型社会の構築に不可欠な再生利用技術、水素エネルギーの利用等革新的な技術に対する研究開発

 我が国の有する科学技術のポテンシャルを十分に発揮し、人類共通の課題である環境保護と経済発展の両立に向けて世界に貢献していくべきである。

(科学技術による国際活動の戦略的推進)

社会経済のグローバリゼーションが進展する中、我が国は人材、技術など知をめぐって世界各国と競争する一方で、地球環境問題のような国際協力によって解決すべき課題にも直面している。

このように、国際的な競争と協力が求められる中で、科学技術の果たすべき役割が増大している。

(略)

また、平成16年11月に京都で開催された科学技術と人類の未来に関する国際フォーラムにおいては、海外の科学技術担当大臣をはじめ産学官の著名な有識者の参加を得て、社会における科学技術の在り方について活発な討論を行った。平成17年1月に兵庫県神戸市で開催された国連防災世界会議においては、防災に関する今後10年間の指針となる「神戸行動枠組」が採択され、防災能力強化のための災害の研究観測予測の重要性等について述べられている。また、2004(平成16)年12月に発生したスマトラ沖地震を踏まえ、我が国はインド洋における津波早期警戒システムの構築を呼びかけた。

我が国が、国際社会において科学技術活動を積極的に展開し、人類の共有財産である知の創出に貢献することは、諸外国からの信頼と尊敬を受け、我が国が国際社会において重要な地位を占めることにつながるものである。

第3節 我が国の科学技術の振興に向けて

第2節においては、我が国を取り巻く厳しい状況の中で科学技術に期待される役割、果たすべき役割について述べた。

 これからの21世紀を展望すると、我が国が様々な制約要因を克服し、持続的に発展していくためには、これまで以上に科学技術の貢献が求められており、その振興に努めていく必要がある。

(基礎研究、重要科学技術の推進)

基礎研究は科学の発展とイノベーションの源泉である。科学の発展は知的・文化的価値、イノベーションは経済的・社会的価値の創出につながるものである。今後一層多様化・複雑化する国際社会においては、我が国は知的資産で諸外国と伍ごしていく必要があり、新しい知を生み続ける多様性に富んだ重厚な知的資産を確保する観点から、基礎研究を一層重視し、幅広く、着実に、かつ持続的に推進していくことが必要である。併せて、施設整備、情報基盤、知的基盤等の基盤整備を着実に進めることが重要である。

(略)

(成果の社会還元)

 科学技術の成果を利用可能な形で社会に還元していくことは極めて重要である。研究開発の成果は、財やサービスとして産業の発展や国民生活の向上へつながっていくとともに、成果を論文発表等により社会に発信していくことは、知の蓄積となり、それがシーズとなって新たな科学や技術となっていく。

(略)

(社会とのコミュニケーション)

 科学技術は私たちの生活の隅々にまで浸透し、社会全体に大きな影響を与えうるものとなっている。「社会のための、社会における科学技術」という視点から、常に科学技術と社会との関係をとらえていくことが不可欠である。科学者やその活動の母体となっている大学、科学者コミュニティは、その社会的役割・責任を自覚し、説明責任の遂行や積極的な情報提供、いわゆる「アウトリーチ活動」等を積極的に行うことが求められると同時に、社会の側にも科学技術への関心の保持、理解への努力が必要となってくる。また、一般人の理解を超える内容や最先端の科学技術の意義などを分かりやすく社会に伝える「科学コミュニケーター」やマスコミの役割も重要である。

 科学技術と社会がより良い関係を構築・維持するためには、双方向のコミュニケーションが不可欠である。

(多様な人材の養成・確保)

 一方、少子高齢化による人材の絶対数の減少の中、科学技術を支える優秀な人材を養成・確保していくことは極めて重要な課題となっている。また、2004年12月に公表された二つの国際学力調査において小中学生の算数・数学、理科の一部の成績が低下するとともに、学ぶ意欲や学習習慣に課題があるという結果が得られた。

 科学技術を担う人材の不足は我が国の将来に大きな影響を与える。将来の科学技術を担う世代に対し、「科学技術の大切さ、面白さ」をいかに伝えるかが重要であり、このためには学校教育の充実に加え、科学館等の充実等多角的な施策の展開が求められる。また、より多くの優秀な科学技術系人材を確保する観点から、女性研究者や外国人研究者、優秀な高齢研究者等が能力を十分発揮できる環境を構築することが必要である。


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