[原子力産業新聞] 2005年9月8日 第2298号 <3面>

[解説] 米エネ政策法の背景探る(2)

 先週号に引き続き、8月8日に成立した米国のエネルギー政策法の背景等を、東京電力ワシントン事務所の前田一郎副所長に解説して頂く。

 これらの動きは、1992年当時の国家エネルギー政策法制定の背景であった、規制緩和の推進、IPPの旺盛な市場参加意欲、そしてそれを支える低価格水準を維持していた石油・天然ガス市場などとは異なる背景に依拠している。エネルギーをめぐる新しいパラダイムを迎えようとしている現在にあって、米国の原子力に新たな価値が与えられるために上下両院の真摯な審議が結実したことは歓迎されるべきことである。

 エネルギー政策法に含まれている原子力関連条項は次のとおり。

@新規原子力発電所の建設遅延による損失を補填するリスク保険スキームの創設

 新規炉6基(炉型3種類×2基)までを対象とし、最初の2基は建設遅延コストの1%(最大500万ドル)、残り4基は50%(最大2500万ドル)をカバー。財源の拠出方法は、法の発効後27日以内にエネルギー省(DOE)が暫定ルール(連邦政府予算か電力会社から徴収するか)を示す。

A先進型原子炉プロジェクトに対する連邦財務保証の提供

 大気汚染や温室効果ガス排出を回避する、あるいは低減させる新たな先進エネルギー技術プロジェクトに対し、最大80%まで政府が借入保証を提供。原子力は「先進原子力施設」がその対象。

B先進型原子炉による発電に対する生産税控除

 先進型炉(合計6000MWまで)での発電に対して生産税控除(8年間に1.8セント/kWh、年間千MW当たり最高1億2500万ドル)を行うもの。

C原子力損害賠償制度(プライスアンダーソン法)の2025年までの延長

 新規プラントに対する原子力災害補償の枠組み確保は原子力新設において不可欠な要件であるため、プライスアンダーソン法の20年延長(2025年まで)を法制化するもの。

Dアイダホ国立研究所における先進原子炉建設の連邦資金承認

 電気・水素コジェネレーションを目的とした将来原子炉プロジェクトに対して12.5億ドルを承認。

EDOEの原子力エネルギー研究・開発、実証等のための連邦資金承認

 DOEの「原子力2010」、先進的核燃料サイクルイニシアティブ(AFCI)等に対し、2007年度から2009年度までの資金として11.8億ドルを承認。

 一方、原子力プラントのセキュリティ(テロ対策)改善に関する要求(設計ベース想定事項の改定、NRCによる定期的実地訓練等)も盛り込まれている。

 

 上記条項のうち、リスク保険スキームについては上下両院のいずれの法案にも含まれていなかったものであり、4月27日に行ったブッシュ大統領演説で表明された政策が、両院協議会の調整の過程で盛り込まれたものである。同演説は具体的な政策の列挙であり、その一部がエネルギー政策法案の最終案に盛り込まれたのは、原子力の新規建設に向けて大統領と議会関係者の強い意気込みを感じさせるに十分であった。

 エネルギー政策法案成立についてエジソン電気協会(EEI)のキューン理事長は、「電力業界はほとんどのロビイング案件を勝ち得た」と発言。原子力エネルギー協会(NEI)のボウマン理事長は、「新規原子力建設への資金支援、研究開発の承認等の支援を通じ、国家のエネルギーの将来に不可欠なものとして原子力を一層正しく位置づけるもの」とコメントするなど、電力・原子力業界は法案の成立を歓迎している。

 すべての研究開発が実行されると、約700億ドルにのぼるものと推定される大型の法案成立になったが、課題が多いことは指摘する必要がある。特に、自由化された卸売市場でどのように原子力発電建設コストを回収するか、また投資家からの資金をどう呼び込むかが、エネルギー政策法の目的を実現する上で極めて重要な課題となろう。(終わり)


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