[原子力産業新聞] 2005年10月6日 第2302号 <3面>

[寄稿] ドイツ政局の行方を占う(1)「脱原子力政策」見直しが鍵に

 9月18日投票のドイツ総選挙では、現政権党の社会民主党、野党キリスト教民主・社会同盟とも過半数を取れず、両勢力による連立政権が模索される中、エネルギー・原子力政策の行方は混沌としている。ドイツの政治問題に詳しいジャーナリストの木口壮一郎氏に解説をお願いした。

 3年ぶりとなるドイツの総選挙が9月18日実施され、即日開票された。与野党の二大勢力が結局、いずれも過半数に満たなかったことから、7年続いた「社会民主党/緑の党」連立政権の続投も、また期待された野党「キリスト教民主・社会同盟/自由民主党」連合への政権交代も、立ち消えとなった。それに伴い、原子力段階的撤退政策を進めているドイツ政治の流れに楔を打ち込み、推進に向かって反転攻勢に出るチャンスも萎んでしまった。

 しかしながら、ここにきて民主・社会同盟と社民党の大連立という妙策が、独原子力産業にとっても次善の選択肢として浮かび上がってきた。

■セカンドベストとして望まれる大連立政権

 今回のように、裾野が左右に広がりきった勢力図のもとでは、センターラインを軸に中道勢力の結集という形で大連立を組めば、意外とすっきりするかもしれない。社民党の右派と民主・社会同盟の左派の政策的な距離はないに等しい。なにぶん古い話であるが、60年代後半には実際に、両党が大連立を組んで難局を乗り切った実績もある。

■緑の党の去就が鍵に

 現下のキーポイントは、だれが首相になるかよりも、与党の一角して反原子力政策に固執してきた緑の党が引き続き政権内に留まるか、それとも野に下るか、という点にある。

 緑の党が政権枠組み内に留まるオプションとしては、いわゆる「ジャマイカ連立」(民主・社会同盟+自民に緑を加えたもの。黒、黄、緑のジャマイカ国旗より)や、「交通信号連立」(社民+緑に自民を加えたもの。赤、緑、黄の交通信号より)が考えられる。これらの場合いずれも、緑の党と原子力積極推進の自民党が、原子力政策をめぐってことごとく対立し、たちまち政権運営が行き詰るのは目に見えている。

 これに対し、緑の党を排除する形で唯一成立しうるのが、大連立政権だ。この「緑抜き」政権なら、独原子力産業にとっても、セカンドベストとして歓迎される筋書きに展開していく可能性がある。この場合、民主・社会同盟の原子力政策にどの程度、社民党が歩み寄れる余地があるのか、そこが今の段階では目の付けどころであろう。

■「脱原子力政策」見直しを突きつけるシュレーダー首相

 緑の党と組んだ社民党の立場は、もちろん『脱原子力』であり、この7年間の実績を踏まえれば、選挙マニフェストにもそう書かざるを得ない。しかし、緑の党を切り離した場合の社民党本来の原子力政策は、いったいどのようなものなのであろうか。

 社民党と緑の党は、異なる政党同士であることから、諸懸案を腹蔵なく協議する場として定期、不定期に連立委員会というのを設けている。さる六月30日に開かれたこの席で、シュレーダー首相の口から、特筆すべき意外な、強い意思が表明された。つまり、首相自ら、原子力政策の見直しを緑の党に突きつけた、というのだ。

 同日付の有力日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(電子版)によると、この連立委員会の場で、「シュレーダー首相は緑の党に向かって、社民/緑の連立政権を引き続き継続する場合、エネルギー政策に大幅な変更を加えねばならない、と述べた。それは、原子力の問題および原子力発電所の輸出の問題に関わるもの」だという。

 もし、この首相発言が事実であるなら、かなり刺激的な発言であるだけでなく、極論するなら、首相が緑の党に三くだり半を突きつけた、とも読める。

 なにしろこの発言の翌日(7月1日)は、「シュレーダー首相信任」動議が連邦議会に上程される運命の日である。与党側が意図的に棄権してこれを否決、不信任を成立させて連邦議会の解散総選挙への道筋をつけた。それゆえその前日、政権の命運もいよいよという段になって、首相は腹をくくり、日ごろ感じていた思いのたけを緑の党にぶつけた、という見方もできなくはない。

 そのように考えるなら、社民党本来の原子力政策のスタンスは、決して緑の党と同型ではないといえよう。むしろ、この7年間、社民党は連立を維持するため、かなり窮屈な思いをして、『脱原子力』という緑の党の政策的看板を最大限尊重してきた、と言っても過言ではないであろう。

 このあたりのたいへん機微な事情を類推する上で参考になるのが、この首相発言に対する反原子力団体の過敏な反応である。(続く)


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