[原子力産業新聞] 2005年10月20日 第2304号 <2面>

[原安技術センター] 創立25周年講演会を開催

 原子力安全技術センターは3日、東京・千代田区の東海大学校友会館で創立25周年記念「報告と講演の会」を開催(=写真)、同センターの最近の活動状況を報告した。会の後半では、元在チェコ日本大使で、現在は金沢学院大学学長等を務める石田寛人氏が、「古典と未来」と題して特別講演を行った(以下概要)。

 私は、98年に科学技術庁を退官した後、99年12月から03年1月まで約3年間、日本を離れチェコに勤務した。チェコは、広さ7.9万平方キロメートルで北海道と同じくらい、人口1020万人、1人当たりのGDPは8375ドル、95年にOECD、04年にEUに加盟した。

 首都プラハの街を歩くと、ロマネスク、ゴチック、バロックの各様式から現代建築までバリエーションに富んでおり、「建物の博物館」といえる。大統領府、大司教殿、ロレッタ教会など、特にプラハ城からの眺めは絶景だ。

 そのプラハも、在任中にモルダウ川の大洪水に見舞われたことがあった。

 芸術的な建造物とは裏腹に、意外と宗教性が薄いことに気付く。カトリック教会も少なくないが、大多数の人々は無宗教で、私も何度か結婚式に呼ばれたが、市役所内の式場を使うこともあった。それでもイースター、クリスマスを祝う習慣はあるようだ。

 また食の方では、東部のワイン、西部のビールが美味だった。

 さて、文学といえばまず言語だが、チェコ語はポーランド語と並んで世界で最も難しい言語といわれている。文字はAからZまでのアルファベット二十六文字と、一部「ハーチェク」というアクセントを付けた文字などを加えて計35文字。文法上も「主格」、「生格」、「与格」、「対格」、「呼格」、「前置格」、「造格」の7格のほか、固有名詞まで格変化することから、言葉を勉強しようとすると、もう仕事にならない。

 音楽の分野では、正確な発音はとても知れないが、ドボルザークがチェコ出身だ。特にバイオリンは「弦のチェコ」といわれるほど世界一流の技を持っている。バイオリンとわが国の三味線とは、同じ弦楽器でも、一方は擦って音を奏でる「擦弦楽器」、他方は弾いて音を奏でる「撥弦楽器」という違いがあり、撥弦楽器には音の重ね合わせの難しさがある。広いホールで多人数の演奏がしにくいことは、野球場で内野と外野の応援歌がズレて聞こえることからもわかり、このことが日本の劇場音楽の形式に現れている。

 また、オペラも大変人気があるのだが、その斬新な演出には驚かされた。例えば中世の話を現代の扮装で演じるとか、他にも色々ある。舞台装置の維持も大変なのだが、衣装にはあまり金をかけないなど、観客を増やすため格安な入場料を設定するよう工夫しており、チェコのオペラは市民が支えているともいえる。半ばメチャメチャともいえる演出方法だが、「新しいことを試みて消えるものもあるが、残ったものが新しい古典となる」と聞いた。

 原子力の世界でも、現在主流の軽水炉はもう古典といえるのかもしれない。古典は「歴史の波に洗われて残ったもの」だ。新しい試みはうまくいかないかもしれない。しかし、あくなき挑戦が重要だ。


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