[原子力産業新聞] 2005年10月20日 第2304号 <3面>

[インタビュー] 国際社会に生きるIAEA職員に聞く(2)

 IAEAに数少ない日本人職員の中でも、さらに貴重な女性職員の米村氏は、保障措置局でイランでの保障措置を担当する査察官。注目を集めるイランの査察は、担当のコアグループ数名のうち、米村氏と、日本人最古参職員の小泉氏、日本人2人が中核を作る。

 査察官は厳しい勤務を強いられる。査察のために年間の出張日数は約100日。女性とて例外とはならない。イランへの一週間程度の出張を繰り返す。

 米村氏は1991年に当時の科学技術庁に入庁。10年あまり同庁と文部科学省で勤務した後、「上司からIAEAに派遣されてみないかと声をかけられ」IAEA職員に応募、2000年9月にIAEA勤務となった。昨年夏にIAEAから長期契約を獲得、今年9月には文科省からの派遣期間が五年間の上限に達し、同省を辞職した。

 イラン担当となる前には、戦争前のイラク査察も担当した。イランでの査察には「特に新しいことはない」。しかし、核不拡散条約(NPT)にもとづく保障措置は、あくまでも自己申告に基づいて行われ、「隠そうと思えば隠せる」ことが問題。長年、保障措置協定に違反して秘密の核開発計画を進めてきたイランでは、2003年12月から、追加議定書にもとづく査察が行われている。

 イランにおける保障措置で残された問題は、@遠心分離濃縮機の高濃縮ウランによる汚染問題の解明Aウラン濃縮開発計画の歴史に不明な部分がある点の解明B「軍事施設」の査察――の3点だという。「完全かつ正確な査察」の実施を目指す。

 昨年からは、いわゆる核技術・物質を巡る「不法取引ネットワーク」の解明にも携わっている。イランからの報告を、ネットワークに関わっていたアジア、欧州の会社・個人からの情報と照合、裏を取る。国によっては、個人から直に情報聴取できない場合もある。

 IAEAでの日本人採用について、米村氏は「日本人なら有利、女性ならなお有利」と言うが、「仕事の上では、女性も男性も関係ない」。女性だからといって肩肘張ることなく、とも。

 IAEAで日本人職員がなかなか増えない理由は、「日本の会社・組織に職員を送り出す体制がない」からだと見る。IAEAでの最長7年間の勤務後、元の勤務先に戻れるシステムや、キャリア上でマイナスにならない仕組みがないと指摘。さらに、日本が裕福になった結果、IAEAで働くことに経済的なメリットが少なくなった。

 IAEA職員を目指す人たちには、「目指すポストに近い分野で、十分な経験年数を積む」よう勧める。IAEA内で目立った仕事をするためには、その分野に関する十分な知識と経験が必要だ。

 「日本人は勤勉で、やるべきことはきちんとやる貴重な存在」。イランで採取した大量の環境サンプル分析では、IAEAサイベルスドルフ研究所の久野氏に大いに助けられ、同氏からも「最後に頼りになるのは日本人」との言葉をもらったと喜ぶ。(喜多智彦記者)


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