[原子力産業新聞] 2005年10月27日 第2305号 <5面>

[インタビュー] 国際社会に生きる IAEA職員に聞く(3)

 尾本氏は東京電力出身。生粋の日本の民間出身者がIAEAの部長クラスに就任するのはきわめて異例だ。東電の原子力技術部長を務め、原子力産業界では以前からよく知られた存在だったが、新たな立場での活躍に期待がかかる。

 民間企業からIAEAに来てみて、人の頻繁な交代にもかかわらず、「過去の経験、経緯などが良く踏襲されている」、「蓄積を重視し、その上に次の仕事を展開させる」システムがしっかりしているとの印象を受けたという。日本では担当者が頻繁に代わり、そのたびにノウハウや方針がご破算になることが少なくないとも。

 IAEA職員2300人中、日本人職員は46人。そのうち出向者等を除いた正規職員は20人程度にすぎない。IAEA通常予算で、米国に次ぐ20%弱を拠出している日本の存在は、米国人職員85名に比べると、いかにも目立たない。しかし、「IAEAの日本人職員が少ない」との日本側の主張に対して、エルバラダイ事務局長は「日本人は応募してこないではないか」と反論するのが常という。

 IAEA職員の募集では、1つのポストに100人前後が応募してくるのが普通だが、尾本氏が部長を務める原子力発電部の課長職の募集に、応募してきた日本人は一人のみ。またその応募も、本人の専門分野と必ずしもぴったりと合致するものではなかったと悔やむ。「自分に合う、ぴったりとしたポストに応募して、国際貢献を」と、日本でIAEA職員を目指す人たちに助言する。

 尾本氏は、終身雇用制により同一社内で昇進していく日本の雇用制度が、日本人職員の少なさの原因ではないかと指摘する。5〜7年間のIAEA勤務後、元の勤務先に戻れるか、給与や昇進でハンディキャップを負うことはないかなど、数多くの課題を乗り越えて日本人が活躍することが、日本の原子力の国際性を測る一つの「指標」。10〜15年の職務経験、国際社会での経験、学位など、IAEA職員として必要な条件を持つ社員を、日本の会社はなかなか手放そうとはしない。

 IAEA職員を目指す日本人には、「国際的に通用する知識と経験を積み、英語力をつける」とともに、国際機関で何を実現したいか、ビジョンと目標を持つことが重要だと指摘する。

 尾本氏は原子力発電部長として、3つの柱となる業務を監督する。運転中の原子力発電所の保守の向上や寿命延長など技術・管理の改善、開発途上国での原子力発電導入・拡大への支援、革新的原子炉および燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO)に代表される技術開発の3業務だ。

 中国、インドなど途上国での原子力発電の拡大、インドネシアやベトナムなどに加え、チリ、モロッコなど多くの国での原子力発電導入計画が注目を集めている。尾本氏は、これらの国の人材やウランなどリソース確保を助け、また、新たに原子力発電を導入する途上国を対象に、「次に何をすればよいのか」を示すロードマップ作りと、これを参照した個別支援の充実を考えている。

 今後さらに力を入れたい仕事としては、原子力局の発行する「技術文書」の体系化を挙げる。原子力安全局の「セーフティー・シリーズ」は、世界中で高く評価され、同局が行うサービスの根拠をはっきり示す。「質の高い技術文書が世界中で読まれ、グッドプラクティスが普遍化するためには、送り出す側の原子力局で、体系化、質の向上など取り組むべき課題が多数」。(喜多智彦記者)


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