[原子力産業新聞] 2005年12月15日 第2312号 <3面>

[ウクライナ] 大統領がチェルノブイリ視察 4号機事故殉職者慰霊碑に献花 来年は事故20周年に

【12月12日=キエフ松木良夫】ウクライナのユーシチェンコ大統領は12月8日、5年前に運転が停止されたチェルノブイリ原子力発電所3号機の使用済み燃料搬出作業を視察した。同作業は12月5日に始まったもの。

 ウクライナの通信社の伝えるところによれば、現地で大統領は同原子力発電所跡を将来、他国の使用済み燃料を受け入れ長期保管する事業に活用する可能性があると述べた模様。同大統領はこれによる経済的な収入への期待に言及しつつも、今後の専門家による討論と国民の声への配慮が必要であるとしている。

 この大統領の発言が今後どのように具体化するかは、現時点では予断が許されない。理由のひとつは、1年前の平和的民主化革命(オレンジ革命)で大統領に選ばれたユーシチェンコ大統領の権限が、来月1月で大幅に縮小されるためである。この権限縮小は、ユーシチェンコ候補(当時)を支持したオレンジ革命を押さえ切れなくなった当時の大統領と議会が同候補派と行なった政治的妥協によるもの。これにより憲法が変更され、新年より大統領の権限は国防と外交に限られる。その代りに、今まで大統領が任命していた首相を議会が選出し、その首相が内政、経済全般を掌握することになる。

 一方、その議会については来年3月に総選挙(比例代表制)が行なわれる。これも楽観が出来ず、現大統領派単独だけで過半数を得ることが困難と予想されている。理由はオレンジ革命後も賄賂などの政治腐敗が収まらず、GDPの成長率が落ち、石油価格が上昇し、国民の生活がほとんど変わらないためである。このような局面を乗り切るため、10月には首相を含む閣僚の半分が大統領により入れ替えられた。しかし、3月の総選挙までにどの程度政局が安定化するかは、不明だ。

 ユーシチェンコ大統領は3号機使用済み燃料搬出作業を視察した8日、1986年4月に同4号機の大事故の際に消火作業を行い殉職した消防士達の慰霊碑に花輪を捧げている。

 来年4月にチェルノブイリ事故20周年を迎えるウクライナでは、チェルノブイリ事故の緊急時対応に携った元作業員、強制移住を強いられた当時の付近住民達が今でも政府の援助を受けている。こうした人々への真摯な姿勢を示し、チェルノブイリ原子力発電所跡地の使用済み燃料保管事業への利用の可能性を示唆することは、今の時期の大統領としてやらなければならないことに違いない。


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