[原子力産業新聞] 2005年12月15日 第2312号 <6面>

[東北電力] 女川原子力発電所の耐震安全性評価について報告(概要)

 1日付け号既報の通り、東北電力は11月25日、8月16日に発生した宮城県沖地震発生時に取得されたデータの分析・評価および耐震安全性評価を、原子力安全・保安院へ報告した。今号では、現在原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会で検証の進められている、同報告の概要を紹介する。

1.はじめに

 8月16日に発生した宮城県沖の地震では、女川原子力発電所が自動停止した。

 この地震について原子力安全・保安院より「今回の地震による耐震安全性の詳細評価」「周期によっては基準地震動の応答スペクトルを超えることとなった要因分析・評価」に関する指示があり、これらについて分析評価を進めてきたところである。本日、「今回の地震による女川原子力発電所2号機の安全上重要な設備の耐震安全性に係る詳細評価」および「周期によっては基準地震動の応答スペクトルを超えることとなった要因分析・評価」の結果がまとまったことから報告するものである。

 あわせて、要因分析の結果を踏まえ、近い将来高い確率で発生が予想される想定宮城県沖地震による地震動と、さらに、限界的なプレート境界地震および最大規模のスラブ内地震を踏まえた地震動を策定し、これらの地震動による2号機の安全上重要な設備の耐震安全性を評価した結果についても報告するものである。

2.指示事項@「今回の地震による女川原子力発電所各号機の耐震安全性の詳細評価」に対する報告

 今回観測された地震データを用いて、女川原子力発電所2号機の安全上重要な設備(建屋、機器)について評価した結果、建屋については地震応答解析により求められた各層のせん断変形角は壁のひびわれが発生する変形角の値以下であり、また機器については基準地震動S1に対する許容値以下であり、弾性範囲にあることから、耐震安全性は確保されていることを確認した。

3.指示事項A「今回の地震で観測された観測波の岩盤表面の応答スペクトルが周期によっては基準地震動の応答スペクトルを超えることとなった要因分析・評価」に対する報告

(1)敷地の観測記録を分析したところ、今回の地震による最大加速度値は、日本で観測された地震動のデータベースに基づき策定されたプレート境界地震に対するこれまでの距離減衰式よりも大きい傾向にあり、さらに、短周期成分の卓越が顕著である傾向が認められた。

(2)敷地で観測された中小地震の記録を分析したところ、今回の地震が発生した宮城県沖近海のプレート境界地震による分析結果だけが、岩盤表面上の応答スペクトルを算定する距離減衰式から求めた平均的なスペクトル特性に対し、特に短周期が大きい傾向が認められた。このような傾向は、宮城県沖遠方のプレート境界地震や、地殻内の地震では見られない。

(3)さらに、東通地点等において観測されたプレート境界地震の分析結果は、平均的なスペクトル特性に対し同等以下の傾向となっている。

(4)以上のことから、今回の地震による敷地における地震動の特徴は、宮城県沖近海のプレート境界に発生する地震の地域特性によるものと考えられる。

4.今回の地震の分析結果等を踏まえた耐震安全性評価

(1) 新たな地震動の評価方針

 要因の分析結果を踏まえ、宮城県沖近海のプレート境界に発生する地震の地域的な特性および最新の知見を考慮し、安全上重要な設備の耐震安全性確認のための地震動を策定することとした。この地震動としては、近い将来高い確率で発生が予想されている想定宮城県沖地震に対する地震動と、さらに、限界的な地震を踏まえた地震動(安全確認地震動)を策定し、安全上重要な設備の耐震安全性評価を実施することとした。

 想定宮城県沖地震の地震動の策定にあたっては、地震調査研究推進本部が策定した想定宮城県沖地震(マグニチュード7.6相当)に対する地震動として、断層モデル解析手法により評価した地震動(以下、「想定宮城県沖地震A」という。)と距離減衰式等から評価した地震動(以下、「想定宮城県沖地震B」という。)の2種類の地震動を策定した。

 また、安全確認地震動の策定にあたっては、宮城県沖に発生を想定する限界的なプレート境界地震(マグニチュード8.2相当)や最大規模のスラブ内地震(マグニチュード7.2)を踏まえた地震動について評価した結果を考慮した。なお、最大規模のスラブ内地震の地震動評価には、平成15年5月26日の宮城県沖の地震の岩盤中の観測記録から解析的に上部地盤の影響を取り除いた地震動を用いたが、この地震動の応答スペクトルは一部の周期帯で基準地震動S1ーDおよびS2ーDの応答スペクトルを上回っていたものの、当該周期帯はすべて基準地震動S2ーNの応答スペクトルを超えるものではないことが確認された。

(2) 想定宮城県沖地震に対する女川原子力発電所2号機の耐震安全性評価

 想定宮城県沖地震AおよびBを用いて、女川2号機の安全上重要な設備(建屋、機器)について評価した結果、建屋については地震応答解析により求められた各層のせん断変形角は壁のひびわれが発生する変形角の値以下であり、また機器については基準地震動S1に対する許容値以下であり、弾性範囲にあることから、いずれも耐震安全性は確保されることを確認した。

(3) 安全確認地震動に対する女川原子力発電所2号機の耐震安全性の評価結果

 安全確認地震動について、女川2号機の安全上重要な建屋および安全上特に重要な機器の耐震安全性評価を実施した結果、建屋については地震応答解析により求められた耐震壁のせん断変形角は終局状態に対する許容限界値を下回っており、また機器については基準地震動S2に対する許容値を下回っており、安全機能が維持されることを確認した。

5.まとめ

 今回の地震に対し、女川2号機の安全上重要な設備について評価を実施した結果、耐震安全性は確保されていることを確認した。

 今回の地震で一部の周期において基準地震動の応答スペクトルを超えることとなった要因分析・評価を行った結果、今回の地震は、敷地およびその周辺で地震観測網が整備されて以降初めての宮城県沖のプレート境界地震による強震動であり、大地震においても顕著に宮城県沖近海の地域特性が現れることが明らかになった。

 宮城県沖近海のプレート境界に発生する地震の地域特性が認められたことから、この特徴および最新の知見を考慮して、設備の耐震安全性を確認するための地震動として、想定宮城県沖地震による地震動(想定宮城県沖地震Aおよび想定宮城県沖地震B)と安全確認地震動を策定した。

 想定宮城県沖地震A、想定宮城県沖地震Bおよび安全確認地震動に対し、女川2号機の安全上重要な設備について、評価を実施した結果、耐震安全性は十分確保されることを確認した。

 今後、引続き女川3号機および1号機について評価を実施し、その結果について報告する予定である。


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