[原子力産業新聞] 2006年1月5日 第2313号 <3面>

[記者会見] ムーア博士(グリーン・ピース創立者) 「原子力の役割が重要」「原子力ルネッサンス近い」

 環境保護団体グリーン・ピースの創立者の1人でもあるパトリック・ムーア博士は、12月14日、東京・千代田区の日本記者クラブで会見(=写真)、地球温暖化を防ぐためには、「再生可能エネルギーと原子力発電を組み合わせることが現実的」だと述べ、「原子力ルネッサンスが近い将来訪れることに疑問はない」と断言。地球温暖化防止における原子力の役割の重要性を強調した。

 ムーア氏は、「原子力発電―解決策の1つ」と題して講演と質疑を行った。

 同氏はグリーンピースを離れた理由について、「毎日少なくとも3つか4つのことに反対を唱えて人生を過ごしたが、それを変えて何かに賛成したいと心に決めた」からだとし、「対立の政治から、コンセンサスを築く政治」へ転進したと説明。また、グリーン・ピースが「科学的な考え方に欠けている」ことを脱退理由に挙げた。

 グリーン・ピースが原子力発電に反対しているのは、「宗教的な信念」によるものだと指摘。かつて同氏も、「原子力発電を隠れ蓑にして核兵器を開発している」と考えて原子力発電に反対した経緯があったことを紹介した。

 ムーア氏は「ウランと石炭が最も豊富なエネルギー源」とし、世界のエネルギーの86%を化石燃料が供給、また世界のCO2の10%は米国とカナダの石炭火力発電所から出ていると指摘。さらに何百もの新規石炭火力が世界中で建設されていると述べた。その上で、グリーン・ピースは、石油、水力、原子力、風力など、99%のエネルギー源に反対しているが、説得力を持たないと批判した。

 原子力については、CO2を放出しない唯一の電源であり、化石燃料の使用量を減らす唯一の方法だとし、発電以外にも水素製造、海水の淡水化、熱利用などにも使えると述べた。

 原子力の安全について、1986年のチェルノブイリ事故は「悪い設計によるもの」であり、米国、カナダでは原子力発電所事故で死んだ人はいないとし、北米では自動車事故で年間4万5000人もの死者が出ているが、自動車廃止を唱える人はいないと述べた。

 原子力発電からの使用済み燃料については「95%は再利用可能なエネルギー源が含まれている」とし、再処理後の高レベル廃棄物の放射能は40年間で1000分の1になるとして、再処理路線への支持を表明した。日本のプルトニウム利用についても、「技術的に可能で基本的問題はない」とし、使用済み燃料は再利用可能との考えを強調した。

 原子力利用に伴う核拡散問題についても、「問題だが、あらゆる技術は良くも悪くも使える」とし、「原子力発電を廃止しても問題の解決にはならない」と強調した。

 ムーア氏は今後、現実的にCO2放出量を減らしていくためには、@水力、風力、地熱、バイオマス、太陽光等の再生可能エネルギー利用を増やすA原子力を大規模に利用する―の両方が必要との考えを強調した。

ムーア博士の略歴

 パトリック・ムーア博士は、カナダのバンクーバー郊外の小村に生まれ、ブリティッシュ・コロンビア大学にて生態学で博士号を取得。1960年代後半にグリーン・ピースが「教会の小さな地下室」で活動を行っていた時から共同創立者として加わり、米国の水爆実験反対運動、捕鯨反対運動など、体を張った激しい反対運動を展開、名を知られるようになった。

 1977〜86年にはグリーンピース・カナダ代表、79〜86年にはグリーンピース・インターナショナルの理事を務めた。同氏はその後、「グリーン・ピースの環境保護政策は科学的でない」として袂を分かち、再生可能エネルギー会社の役員を務め、現在はコンサルティング会社「グリーンスピリット・ストラテジーズ」の会長兼主任科学者を務めている。


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