[原子力産業新聞] 2006年3月23日 第2324号 <4面>

[原産報告] 「核融合開発における産業界の立場と役割」の概要

 1面所報の通り、日本原子力産業会議の核融合開発検討会は23日、「核融合開発における産業界の立場と役割」をとりまとめた。同報告書は全6章からなるが、ここでは、その中から第5章の一部と第6章を紹介する。なお、他の部分については、紙面の都合上、割愛させていただく。

第5章 産業界における核融合環境をめぐる現状と課題

5・1 国の核融合研究開発推進方策と産業界への期待

(略)

5・2 核融合開発市場の縮減による影響

(略、図表参照)

5・3 ITER建設へ向けての留意点

 2005年6月に、ITERサイトが決まり、「幅広いアプローチ計画」もほぼ内容が固まり、いよいよ建設段階へ一歩踏み入れようとしている状況において、国からの産業界への協力期待も高まってくることが予想される。

 ITERの建設に加え、国際核融合エネルギー研究センター建設など予想される当面の核融合市場を見通すと、我が国の核融合市場に投入される予算は、今後増大に転じ、10〜15年程度は毎年、数百億円の規模が見込まれることが想定される。それに伴って、産業界の関連機器等の製造機会は多くなり、製造技術や人材の維持確保にとって好材料となるかもしれない。

 しかし、国際協力によるITER建設においては、日本の役割は主にITER機構に機器を物納することと職員派遣を通じてシステム統合技術の獲得を図ることとされているが、それだけで国内原型炉設計を見据えた場合に十分なのか精査する必要がある。

 物納のための機器製作に関しては、JT―60建設の時とは大きく異なり、基本的には機器の製造のみを担うことになる。すなわち、分担分の主要機器の製作は経験できるものの、それ以外の建家、主要機器等について、日本は製作機会が得られないため、わが国産業界はそれらに関する製作技術が維持できない可能性がある。一方、ITERの「幅広いアプローチ計画」がITER建設と同時期に日本とEUが協力して進められることとなり、JT―60の超電導化改造計画(正式名称はNCT=国内重点化装置)もその一つとされている。NCTはコイル系を超電導化するため、コイル系以外に、真空容器、炉内機器、電源等が改造されるとともにクライオスタット、冷凍系等が新設される計画であり、ITERの主要機器製作で日本が分担できない機器をNCTで補完するなどといった工夫がとられれば、製作技術維持の一つの方法になると思われる。

 また、例えばトリチウムに深く関与する安全設計技術や許認可に関する一連の作業の経験など、将来の原型炉に向けて必要な技術は、ITER計画を通して主としてITER機構及びホスト極に蓄積される貴重な技術である。これらを含め、システム統合技術をITER機構への職員派遣を通じて獲得を図ることについては、どのような人材をどの部門にどの程度、派遣させるのか明らかにする必要がある。また、そのような人材はITER機構で得た経験をもとに国内原型炉設計で有効に活用する必要があるので、産官学全体の視点から具体的な派遣を検討する必要がある。従って、派遣について産業界がどこまで協力できるかは、国としての技術派遣計画が明確となった上で判断が可能となる。

 なお、国際協力によるプロジェクトの場合は、資金や技術的リスクの分散という利点があるものの、当該国に必要とされる技術・ノウハウの確保、維持という観点からは必ずしも十分ではないことは確かであり、そこに国際協力の難しさの側面もある。

 ITER計画においては、我が国の産業界は海外企業との競争、協調のもとで企業活動を行うことになる。その際、産業界と密接に連携した体制で計画に取り組もうとしている欧米諸国や、国と一体となって計画に取り組み先進技術の吸収獲得に熱心な後発国とともに、我が国産業界がITER計画への協力と貢献を果たすには、以上のような固有の状況を十分踏まえた上で計画に参加することになる。

5・4 今後の核融合研究開発の方向と産業界の課題

 5・1節に示したように国は産業界に対して、短中期的には(1)ITERなどを通して核融合機器の製造技術の蓄積・向上に努め、原型炉に向けた製造技術の確立と経済合理性を追求すること、(2)原型炉の概念設計および原型炉段階への移行時のチェック・アンド・レビューに参画すること。また中長期的には、産業界の知見と技術を維持発展させて長期的な研究開発に積極的に参加すること――を求めている。産業界としても、これに応えることの重要性は認識しているが、そのための課題も多い。

 これから10年以上に及ぶ長丁場でITER建設が始まり、同時に「幅広いアプローチ計画」も進められることを考えると、これらに産業界が十分に寄与・貢献することが期待されているはずである。しかし5・2節で述べたようにここ5、6年の核融合市場規模の縮小により、産業界にとっての基盤である技術や人材などが脆弱化しつつあることが鮮明となってきている。そのような状況において、これらプロジェクトを現有の技術者だけで対応することは不可能な規模であることは確実で、即応するためには技術者の増強が緊急の課題である。最終的には経営判断に委ねられるが、ITER建設に携わるために大量に投入された技術者を建設終了後に如何に活用するかのシナリオ(核融合で引き続き活用できるケースと他分野へシフトして活用するケース)を明確にしておくことが産業界にとって技術者増強の必要条件である。更にITER建設等によって、日本の分担分あるいは海外から依頼された機器の製造によって製造経験が産業界に得られるであろうが、それを原型炉設計にどのような形で結びつけるかを予め具体的に検討しておく必要がある。

 また、ITER建設において、一部の主要機器製作やプラントのシステム統合技術、建設ノウハウ、許認可対応などは日本が経験できないこと、更に、国が期待する「原型炉に向けた製造技術の確立と経済合理性を追求すること」に応えることを踏まえ、原型炉以降における核融合研究開発の取り組みの中で、どのような開発体制のもと、産官学の役割分担がどうあるべきかを明らかにしていくことが重要である。産業界は原型炉以降もITERと同様に単なる機器製造の請負としての役割で良いのか、それともプロジェクトマネージメントを含めたプラント全体のシステム統合作業から建設までの主体的役割を担っていくのかによって、国が期待する維持すべき技術、人材、体制等が大きく異なってくる。

 産業界としては実用化に向けた経済合理性の追求への取り組みについては、プラントシステムの概念に依存する点も多いが、当然のこととして、プラント建設における設備費や機器製作のコストを削減することが重要な課題であり、役割と考えている。ただ、メーカー等にとって、製造コストの削減効果が大きくでてくるのは、商業化段階でのリピート効果や合理化・量産化によってである。核融合のような大型で建設に長期間を要し、しかも単品の開発段階のプロジェクトにおいては、どうしても工場設備の効率的利用や原価償却費の回収ができにくいこと、開発リスクが大きい等から、難しい状況であると言わざるを得ない。また、昨今の中国等の高度経済成長に伴う資機材やエネルギー等の高騰からコスト問題は産業界で大きな課題となりつつある。

第6章 今後の核融合開発の展開に向けて

 上記の原子力委員会報告書は、我が国が核融合開発を推進する意義を、「科学技術創造立国として、その実現にリーダーシップをとり、地球環境問題の解決と我が国の自立性を高めてエネルギーセキュリティを確保すること」と述べている。その意味で、今後十数年間の取り組みが、我が国の核融合研究開発にとって極めて重要な時期といえる。とりわけ我が国が科学技術創造立国として、世界にリーダーシップを持ちつつ核融合発電を実用化させるためには、日本国内にきちんとした技術基盤とそれを支える財政基盤が確保されていなければならない。

 未だ核融合による発電の実現・実証が見通せている状況ではないが、その基盤の一翼を担うことが期待されている産業界としても、先に述べたような様々な課題を抱えているとはいえ、環境負荷の低減、エネルギーセキュリティの観点から核融合開発の重要性を認識しており、核融合がチャレンジングな技術の集合体であり、核融合開発分野で日本が世界を引っ張っていけるよう貢献していきたいと考えている。

 国の期待に十分応えるためには以下の点について国を中心に対策を考え、実行していく必要があると考える。

◇   ◇

(1)核融合を国家基幹技術として位置付け

 核融合開発を「地球環境保全」と「エネルギーセキュリティ」という観点からの総合科学技術会議による「国家基幹技術」の一つとして位置付けることが必要である。科学技術創造立国においては、不断の研究技術開発活動は立国の根幹に関わるものであり、巨額で長期の研究開発を必要とする核融合のような大型プロジェクトは国が中心となって推進していくべきものである。

(2)国の開発計画および開発体制の明確化

 産業界は巨大かつ長期にわたる開発要素の多い核融合開発に関わっていく場合は、プロジェクト開始までに、人材確保、技術開発・製作設備投資など計画的に準備しておかなければならない。産業界がこうした取り組みを行うためには、国における実用化に至るまでの核融合研究開発のロードマップの詳細化が求められる。例えば当面として原型炉設計までに必要な開発項目および予算、開発の分担(開発体制)、原型炉建設までの期間などを検討する必要がある。

 開発体制については、とくにITER計画での「幅広いアプローチ計画」の一つであるデモ炉の国際設計活動が原型炉に生かされるよう配慮した体制構築が必要である。また、産業界が継続して核融合技術開発および技術維持を行っていけるような開発の仕組みも必要である。

(3)原型炉を見据えて確保しておくべき技術への対応

 国際協力によるITER建設には、各極が機器を分担して製造することになっていることや、建設サイトがフランスであることなどから、我が国として担当以外の主要機器製造やシステム統合作業等の経験が得られない可能性がある。原型炉建設に向けて国の期待される役割を果たしていくためには、国際協力で得られない技術を国内自主開発プログラムで構築し、補完すべき技術を見定めることによって、日本として維持しておくべき技術の維持確保について早急に検討しておく必要がある。また、国が中心となり実施するであろうチェック・アンド・レビューに参画し、産業界として評価する能力を確保する方策についても検討しておくことが重要である。

(4)適正かつ継続的な核融合開発の実施

 現状において、産業界の核融合市場規模は、そのほとんどが核融合関係政府予算によって左右されている。したがって産業界にとっての基盤である人材や技術などを維持していくためには、当面は国の継続的な市場創出(予算措置)による製造機会が不可欠である。とりわけ、プロジェクトとプロジェクトの狭間における配慮が重要と考える。

 すなわち、産業界における長期的な人材、技術等基盤の維持は国益に基づく国家的配慮が必要である。

(5)ITER建設と「幅広いアプローチ計画」への対応

 ITER建設と「幅広いアプローチ計画」がほぼ同時進行的に実施されることを考えると、メーカー等においては技術者確保が緊急の課題であるとともに、材料の入手性・調達性について十分な配慮が必要である。中国等の旺盛なインフラ整備を始め、国内でも設備投資が活発化してきており、例えば鉄鋼材料でも入手性とコストの面で様相が明らかに変化してきている。このように材料の長納期化と高騰化、さらに製造設備がタイムリーに使用可能かどうか、ITERの現状計画とのすりあわせやその対応策が必要である。


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