[原子力産業新聞] 2006年5月18日 第2331号 <3面>

松木良夫駐在員のウクライナ便り チェルノブイリ国際会議開く
ウクライナ政府が主催 健康影響、復興など議論

【5月4日=キエフ松木良夫】4月24日から26日までの3日間、ウクライナのキエフでは、政府主催の国際会議「チェルノブイリ事故後20年、将来の展望(フューチャー・アウトルック)」が開催された。

これは、ベラルーシ政府、ロシア政府、欧州連合(EU)、IAEA、WHO、国連開発計画(UNDP)、ユシュチェンコ大統領夫人の主宰する国際慈善基金「ウクライナ3000」などとの共催になるもの。

3日間で、約400人の参加者を得たこの会議では、初日の開会式で、ユシュチェンコ大統領が開会の辞を述べ、その中で、チェルノブイリ事故がソ連時代に、安全文化も、必要な手順も、訓練も無い状況で発生したこと、同原子力発電所は今後解体し、敷地は自然の状態に戻す予定であること、同事故の悪いイメージを払拭するために、今後もこれを医学、生物学、経済学などを含め、包括的に研究し、未来に向けて働ける環境を作る必要があると述べた。

2日目からは、4分科会(環境保護、健康影響と防護、事故からの復興と開発、安全管理と制度の開発)に分かれ、議論が行なわれた。

第1の「環境保護」分科会では、環境モニタリングの継続、事故現場周辺の地下水系の挙動と放射能拡散調査などの必要性が報告された。また、事故現場から半径30kmの立ち入り禁止区域を、放射能に汚染した土地の復興技術の試験・開発に利用する提案がされた。

第2の「健康影響と防護」分科会では、各種がん、白内障などの発生に関する報告があったほか、比較的高いレベルの放射線に被曝した事故回収処理作業者とそれ以外の住民の健康障害を分けてとらえる考え方も示された。また、健康障害をとらえる際、放射線被曝の影響以外に、喫煙、飲酒、交通事故、地域の医療レベルなどを含む被災者各層の生活レベル、生活習慣の考慮が必要であるとの見方が示された。

第3の「復興と開発」分科会では、ソ連の崩壊がチェルノブイリ事故の影響を更に悪化させたことを裏返せば、チェルノブイリ事故からの復興開発の鍵は経済的な開発であることが示された。人々は自分自身の健康管理の責任を持つべきだが、生活環境改善のために、国レベル、地域レベルの政策作りが必要であること、当事国政府への国際協力とのその調整活動の必要性が示された。

この国際会議2日目には、科学的な分科会の議論と並行して、チェルノブイリ事故を人道支援の観点からとらえたヒューマニタリアン・フォーラム「再生、継続、人類の進歩」が開かれ、関係者による対話の継続と支援の継続が出席者により合意された。

同フォーラムの「将来への戦略」分科会では、UNDP、心理学者等から、この20年間の被災者の心理状態の変化が報告された。最近の傾向は、自分自身への心配よりも、家族への心配へ重きが移りつつある。こうした変化をとらえつつ、今後は人々の心理的なリハビリテーションと地域社会の再連帯、再開発が必要とされる。

独立後15年目を迎えるウクライナでも、経済復興が進み、国民全体の生活の安定感も、チェルノブイリ事故以前のものに戻りつつある。ウクライナは不幸な事故の経験を触媒にして、旧ソ連の制度から脱するための新たな社会開発を行なう状況にあると見る専門家もいる。


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