[原子力産業新聞] 2006年7月13日 第2339号 <4面>

自由電子レーザーの発振に成功 理研と高輝度センターがプロト機で

理化学研究所と高輝度光科学研究センター(JASRI)はこのほど、X線自由電子レーザー(XFEL)のための電子ビーム発生・加速技術を確立、プロトタイプ機(=写真)により、自由電子レーザーの発振に成功した。第3期科学技術基本計画において国家基幹技術に指定され、10年完成を目指し今年着工したXFELの性能達成に向け、大きなステップになる。

XFELは極めて高質の電子ビームをアンジュレータと呼ぶ磁石列間で周期的に小さく蛇行させ、特定波長の明るい光を作り出す。SPring─8の放射光に対し、10億倍以上という極めて高いパルス輝度を得ることが可能。短波長(高エネルギー)、高指向性(コヒーレント光)で短パルス特性に優れる光を発振する。

理研とJASRIは共同推進体制のXEFL計画合同推進本部(坂田東一本部長)を設置、昨年、全長60mのプロトタイプ機の建設に着手した。今回、最大加速エネルギー250MeV、エミッタンス(平行性)3πmm・ミリラディアン、電荷量0.25nクーロン、パルス時間幅1p秒という高質の電子ビームを安定的に作り出し、これをプロトタイプのアンジュレータに導入、波長49nm、最大出力110kWのレーザー光の発振に成功した。

合同本部が純国産技術で開発中のXFELは、高品質ビームを得る超高圧電子銃、高効率でコンパクトなCバンド加速器などが大きな特徴。同電子銃はカソードにセリウムボライト単結晶を用いており、電子のエミッタンスは最高1.1πmm・ミリラディアンという世界記録を達成した。同加速器は加速周波数5.712Gヘルツ、従来比2倍の加速効率を達成しており、高純度銅を高精度に加工した加速管、新規開発したクライストロンやパルス電源などにより実現した。アンジュレータはコンパクト化できる真空封止型としている。

SPring−8サイト内に建設するXFELはレーザー波長0.06nm、加速エネルギー8GeVの性能を目指す。発振器の全長は約800m、プロジェクト総経費は355億円を予定する。

XFELは原子・分子レベルの構造解析、高速な動態・変化の捕捉などを可能とするため、創薬やナノテクなど幅広い分野で革新的な成果を生み出すツールとして期待され、世界的に熾烈な開発競争になっている。米国ではSLAC(スタンフォード線形加速器研究センター)が09年、欧州ではDESY(ドイツ電子シンクロトロン研究所)が12年に運転開始を目指して建設計画を進めており、DESYは今年4月、波長13nmの発振に成功した。


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