[原子力産業新聞] 2006年8月24日 第2344号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞く@
日本原子力文化振興財団理事長 秋元 勇巳氏(原産協会副会長)
「原子力立国」課題は求心力

経済産業省は、新・国家エネルギー戦略の主軸に「原子力立国計画」を据え、官民一体となった取り組みを開始した。エネルギー安全保障と地球温暖化防止を同時解決しながら、経済の持続的発展を期す切り札が原子力であり、「原子力ルネサンス」の流れが世界的に加速する中、日本が自国の安全保障を磐石にしながら、国際的にもイニシアチブをとり、また貢献していく狙いである。そこでこの機会に、原子力界の再生を目指し全面改組した日本原子力産業協会に各界を代表して経営参加している各理事にインタビューし、それぞれの立場から原子力についての現状認識、考え等を聞いた。(原子力ジャーナリスト・日本原子力産業協会嘱託 中英昌)

―― 原子力を知り尽くし、語ることのできる数少ない経済界の重鎮として、原子力の今をどう見ているか。

秋元 原子力エネルギーなくして21世紀を乗り切ることは、地球環境保全およびエネルギー安全保障の双方から不可能との客観情勢が浸透、「原子力ルネサンス」の流れが加速してきた。ただ、それが本当に社会に定着し、21世紀を支えていくエネルギーになれるかの社会的条件はまだ整っていない。今がその瀬戸際で、実際のニーズと実態とのギャップをどう埋めていくかが課題として残されている。

つまり、原子力の重要性については一般の理解も深まってきたが、まだ求心力に乏しい。産業界を見ると、日本のような小さな市場に原子力プラントメーカー3社がしのぎを削り、核燃料加工会社も再処理を行う日本原燃を別に3社もある実態は変わっていない。こうした産業体制が日本の国益のためにどうかを考えていかないと、例えば、燃料加工会社はいずれグローバル企業の草刈場となり、日本の核燃料を海外に依存することにもなりかねない。

日本の原子力を支える産業界、企業の在り方が徐々に変わらざるをえないときを迎え、それは電力会社も同じだ。各社単位ではなく広く、日本全体のことを考慮し広域運営や共同開発を進めないと一社単独では原子炉を引き受けにくい状況になりつつあるし、コストダウンの国際競争も一段と厳しさを増している。

今回、「原子力立国計画」がまとめられたことで、そうした“求心力”の流れは見えてきたが、スピード、やり方が非常に難しい。「日本のエネルギー安定供給をいかに支えていくか」に全てを収れんさせ、日本にとっても、電力・メーカーにとっても、電力供給を受ける消費者にとっても満足のいく産業体系にまとめ上げていくことが一番大きな課題だと思う。

―― 一方、核不拡散問題も秋元さんのライフワークのひとつですね。

秋元 日本は国際原子力機関(IAEA)や米国から、非核兵器保有国の中で唯一、核燃料供給保証国に準ずる扱いを受けていることで、浮かれすぎているのではないかという気もする。特に、高速炉や燃料サイクルの開発では、核兵器国ならではの心配りをしていかねば、国際政治情勢によっては、状況が一変することも予想される。米国や中国などの動きで振り回されないよう、日本のきちっとした軸足を持つことが肝心だ。

それには、日本の原子力の研究開発は、経済性に加え、安全を前提とした核拡散抵抗性を常に念頭において進める必要がある。エネルギー問題は今後さらに深刻化していく中で、原子力が主役になっていかねばならない。特に、2008年の日本でのサミット開催に向け、日本は非核兵器保有国で唯一核燃料サイクルを認められている国として、原子力のあり方のモデルを示し、イニシアチブをとっていけるような提言をしたい。そのための、国際評価に耐えるシナリオ作りに、原産協会としても大いに貢献していくべきだと考える。

[略歴]1951年、東京文理科大学(現筑波大学)化学科卒、三菱金属鉱業(現三菱マテリアル)入社、社長、会長を歴任、現在、名誉顧問。2002年から日本原子力文化振興財団理事長。


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