[原子力産業新聞] 2006年9月7日 第2346号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くB
原子力40〜50%実現に向けて 東京大学大学院電気工学専攻教授 山地憲治氏

――工学と社会経済との学際的研究の立場から立国計画をどう見るか。

山地 「原子力立国計画」は昨年10月に閣議決定された原子力政策大綱の路線上にあり、中でも一番大事な点は、2030年以降も電源に占める原子力発電のシェアを30〜40%プラスαにするところにある。私はこれに全く同感で、原子力関係者の中には、もっと高めるべきだとの意見もあるが、島国の日本でフランスのように70〜80%も1つの電源に依存することは、エネルギー・セキュリティー、経済性いずれの面から考えても合理的ではない。

従って、30〜40%は妥当だが、では、プラスαをどう見るか。私は全体として40〜50%の間を維持するのが適切だとかねてから考えている。ただ、この目標を実現するのは難しい。まず設備利用率(稼働率)の向上がポイントになる。世界の原子力規模はこの15年間にわたり足踏みし、特にアメリカでは30年以上、原子力発電所の新規建設が途絶え停滞した。この間、日本は少数とはいえ新規建設が継続され、停滞したという表現は当たらない。しかし、稼働率で遅れをとったことは大きな問題だ。

原子力の比率40〜50%を実現するには、第1に稼働率を高め、足元をきちんと固めることが大事だ。わが国の原子力発電は今、それほど大きな社会的問題がないにもかかわらず、数基が運転停止し、全体の稼働率が低くなっている。今ある原子力が順調に動き稼働率が上がれば、40%近くまでいける。さらに50%に持っていくには、2030年頃と予想される現有電源のリプレースをしっかり行ってつないでいく必要があり、これが第2の課題だ。

――FBRサイクルについてはどうか。

山地 長期的取り組みとして核燃料サイクルの確立・FBRの本格利用が明示されたことは重要だと考えている。FBRの実用化は長期的に原子力を活用するために必要なもので、地球温暖化対策など国際的視点から評価すべきものだ。また、立国計画の5つの基本方針の第1に「中長期的にブレない確固たる国家戦略」を据えているが、“ブレない軸”とは何かで、皆それぞれ都合のいいように考えていると思う。30年以上も先のことをガチッと決めてかかるのは現実的ではなく、立国の主軸は原子力を30〜40%プラスαの基幹電源とすることにあり、そのための基盤強化が一番大切だと考える。

同時に、軸がブレないことは大切ながら、常に可能性は探っていかないと違う意見が育ってこない。これからもチャレンジするスタンスから原子力を見ていきたい。原子力は技術的にいくら優れていても、経済性を欠いては現実のエネルギー供給力にはなれない。また、立地、安全、国際政治等、現実の社会との接点に立つだけに、原産協会には、そうしたリアリティーを踏まえた産業界の意見を発信してほしい。

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[略歴]1972年、東京大学工学部原子力工学科卒、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、電力中央研究所入所、同所経済研究所経済部エネルギー研究室長、同所経済社会研究所研究主幹を経て94年から現職。


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