[原子力産業新聞] 2006年9月7日 第2346号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くB
ポジティブな流れに転換 丸紅常務執行役員 望月孝一氏

――商社ビジネスの変遷、原子力の位置づけについて聞きたい。

望月 商社はかつて、日本企業があまり進出していない海外および地域の情報提供や物流・商品の仲介に対して対価(口銭)を受ける仲介業が基本的ビジネス形態だった。しかし、経済成長に伴う日系企業の海外直接進出やインターネットの発達で情報入手が容易となり、その分、商社機能は低下、今は事業投資へとビジネスモデルが変わりつつある。ただ、商社機能の基本は社会と顧客の接点に立ち、経済発展や豊かな国際社会確立へ貢献していくことにあり、その接点の中で個々のニーズを汲み取り、魅力ある提案につなげ、必要なら事業参加していくことになろう。

商社全体における原子力ビジネスの位置づけは分からないが、丸紅での歴史は長く、燃料、機器の輸出入、保守サービス等を含め、収益面でもエネルギー部門、金属資源部門の足腰をきっちり固めてきた。昨今では、原子力の国内立地が激減、また、不祥事や事故が相次いだことで関連業界では原子力部門の大幅合理化が不可避となったようだが、丸紅では過去10〜20年間で見ても収益は安定しており、大事なビジネスである。

それだけに、今回、原子力が国家戦略上重要な位置づけとなり、「原子力立国計画」で今日、明日の目先のことではなく、2050年頃のFBR商用化など、中長期にわたるエネルギー安全保障の展望をブレない政策として提示された意義は極めて大きい。何よりも日本全体、社会全体の原子力に対する見方がポジティブになりつつあることで、これまでに積み上げてきた実績がわれわれの強みになる。後は実戦部隊がそれを本当に実ビジネスに組み立てていけるかだが、チャンスは間違いなく広がっている。

――原産協会では、どのような役割を果たし、また何を期待するのか。

望月 私は丸紅に入社以来30数年、石油、天然ガスのビジネスが長く、原子力は5年ほど前に少し勉強した程度のヒヨコだ。だが、ヒヨコなりの違った視点、また、商社という立場で意見を述べ、原子力専門の方から「固定概念にとらわれず、なるほど面白い視点で見ているな」と言ってもらえるようなことがあれば、臆せず積極的に発言していきたい。

ただ、原子力利用の根底には常に「安全・安心」が大前提にあり、ひとたび事故を起こせば一気に10年ぐらいは後退してしまう。まずは日本がその辺をきっちり固める必要があり、原子力産業にかかわっている人たちが、ここでもう一度認識を新たにし、間違ってもケアレスミスで問題が起きることのないよう、心を引き締める必要があろう。さらに、地方との連携を深め、原子力を理解するだけでなく、応援者が1人でも増えるよう原産協会の場でも努力したい。

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[略歴]1974年、慶應義塾大学商学部卒、丸紅入社、米国会社本部長、執行役員、常務執行役員を経て、06年から代表取締役常務執行役員。


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