[原子力産業新聞] 2006年9月21日 第2348号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くD
フロンティア領域の魅力・魔力 東京大学大学院 原子力国際専攻長 勝村 庸介氏

――大学における原子力教育ルネサンス、新原子力学の視点でお話しを。

勝村 私は東大で「原子力工学科」の名称を解消した際には抵抗した方で、原子力をやりたかった。その後、JCO事故等が起きるに及び、やはり原子力の専門教育は必要であり、それにきちんと取り組むことがわれわれの使命だ、「やろう!」と、昨年4月に大学院に国際原子力専攻と原子力専門職コースを立ち上げた。それが結果的に「原子力立国計画」など原子力に陽が当たり、世界的な原子力ルネサンスの流れにも呼応する形となったことを思えば、私どもの決断は間違っていなかったとの感が深い。

ただ、原子力が重要性を増しているといっても、既存技術の改革や継承では革新性に乏しく、若いチャレンジングな学生に魅力を持ってもらえない。そこで、国際原子力専攻では、新原子力時代に対応する3大重点分野を研究領域に据えた。 第1は、「先進原子力エネルギー」で、国際協力で進められている次世代原子炉の開発等、従来の学問分野の一歩先を行く革新的技術開発が中心。

第2は、「原子力社会工学」。科学技術が進歩すると必ず起きる社会や倫理との衝突といった境界領域を研究する。中でも重要なのが核不拡散問題で、平和利用に徹する日本の理想的存在を国際社会で主張できる若い人材を育てる必要性が高い。さらに第3は、「先進レーザー・ビーム、化学と医学物理」。フロンティアは、常に境界にある。

私の専任は、放射線がどういう作用をするか、その魅力・魔力を解明することで、それが工業製品の生産、環境保全技術の開発に役立つ。基礎的研究は大学が担当するが、産業界への具体的応用の推進役を原産協会に期待したい。特に、産業界の現場技術者が直接議論に参加し、彼らの意見を研究開発面にフィードバックしてほしい。

――国際的観点からは、原子力の国際展開・協力が焦点の1つになっている。大学とは、どんな関わり合いがあるか。

勝村 原子力にフォローの風が吹いてきたとはいえ、まだまだがんばらないとアジアでの原子力ビジネス展開では、他国に市場を全部刈り取られかねない。これは大学が心配することではないかもしれないが、大学は相手国の技術者、研究者との交流を深めることで支援できると考えている。例えば、東大では原子力工学科時代から10数年にわたり留学生を受け入れてきた。今や“継続は力”で、当時の留学生は帰国後母国で相当の地位についている人も多い。彼らとは電話1本でやり取りができ、気心も通じ合う。大学は、研究、教育を通じた海外諸国との交流が可能であり、国際展開で相当の役割を果たせると思う。

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[略歴]1976年、東京大学工学系原子力工学専攻修士課程修了、同工学系研究科システム量子工学専攻教授、工学部原子力工学研究施設教授、大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設教授を経て、06年から現職。


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