[原子力産業新聞] 2006年10月5日 第2350号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くF
「世界的展望」を持って 東芝執行役常務 電力システム社社長 佐々木則夫氏

――「原子力立国計画」の今と今後をどう見るか。

佐々木 原子力立国計画については、国内の原子力発電所の新規建設の減少や、先行きの不透明感からの国内原子力産業の維持への不安とエネルギー安全保障や地球環境問題への対応にむけて、策定の環境が醸成されたとの印象が強い。加えて、今回の立国計画では、原子力発電所の新規建設、再処理のみならず、フロントからバックエンドまでを包含した総合的なエネルギー安全保障の視点から、国策レベルで見ているところが肝心な点だ。

その立国計画を推進するに当たり、国内的にも国際的にも、「世界の中の日本」という意識に立つことが不可欠の要因だと考える。原子力のエネルギー利用における日本の強みは、世界の原発建設が停滞する中、新規建設を継続してきた実績と技術的蓄積があることだ。しかし、国内で2030年頃のリプレースが始まるまでの間、新規建設が停滞すると、研究開発は継続されても10年もすれば、日本の優位は失われる。

その間をカバーするには、海外で活発化しつつある国際市場に出て行かねばならないが、これまでのハード技術だけでは限界があることを肝に銘ずべきだ。日本の優秀な技術で発電所を建設しても、「燃料の供給、廃棄物処理・処分は知りません」では国際商戦に勝てない時代に入りつつある。つまり、フロントからバックエンドまで総合的に対応できるスキームとし、政府も後押しする提案にしないと勝機はない。原子力で日本が世界に貢献するには、まず海外で多数建設することから始め、それに見合うフロントからバックまでの供給体制の整備が必須になる。核燃料サイクルの各ポーションで国内だけでなく、世界に向けた供給も踏まえたストラクチャを提案することが次のステップになろう。

――ところで、東芝のWH社買収が大きな波紋を広げた。その狙いを聞きたい。

佐々木 我々がどういうビジョンの下にWH社の買収を決定したかというと、原油価格の高騰や地球環境保全を考えたときに、最善の選択肢である原子力が将来に向かって必要だという大前提があり、そのとき、世界市場で原子力ビジネスを展開しているWH社が非常に有効なオプションであり、しかも、タイミングよく売りに出された。加えて重要なことは、東芝の手がけてきたBWRでないPWR中心で、お互い補完関係にあることが更にシナジーを創出する。WH社のAP1000は現在、米国内でも十数基の新設需要が見込まれ、また中国のように、当面PWRしかやらないとしている国もある。このような事業環境にフィットする投資により、東芝の原子力ビジネスの将来性を確信できるビジョンを構築できると判断した。当のWH社関係者も、補完関係にあることもさりながら、往年のWH社の業態に似ている東芝に買収されたことを歓迎していると聞いている。

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[略歴]1972年早稲田大学理工学部卒、東京芝浦電気入社、執行役常務電力・社会システム社副社長原子力事業部長を経て06年から現職。


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