[原子力産業新聞] 2006年10月12日 第2351号 <4面>

反陽子水素原子を発見 東大物理 早野教授らが発表

東京大学大学院物理学専攻の早野龍五教授(=写真)の研究グループは反陽子()と水素分子イオンから、反陽子水素原子(プロトニウム)と水素原子を生じる反応を解明し、反物質と物質との化学反応の観測に世界で初めて成功し、論文を米国物理学会のフィジカル・レビュー・レターズ誌の10月12日号に掲載する、と発表した。

同グループは2002年にスイスのジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の研究所で、反水素原子(反陽子の周りを陽電子が回る)を大量に生産することに成功したことで世界の注目を集めた。

このときの実験は、超高真空の中で絶対温度15Kの極低温という条件の下で行ったもので、その後さらに詳細に実験を解析した結果、今回の現象を発見したもの。

反水素原子は直径2.5cmの円筒状実験装置の中央で生成し、周りの電極壁で消滅するが、反陽子と陽子が互いの周りを回っているプロトニウムは、両者が次第に近づき約100万分の1秒で対消滅し約3個のパイ中間子を放出する。このパイ中間子を検出することによって、以前は「バックグラウンド」として考慮の対象外としていた場所で、プロトニウムが生成し消滅していたことが分かった。

今回の実験の結果、プロトニウムの大きさ(反陽子と陽子の距離)が従来理論上、直径が約1オングストロームとされていたものが、実は約5オングストロームあることが明らかとなり、素粒子4個(反陽子、陽子2個、電子)の簡単な衝突反応系で、理論と実験との間に明確な食い違いがあることが判明し、今後理論の再構築が進むものと期待されている。


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