[原子力産業新聞] 2006年11月16日 第2356号 <3面>

『温暖化防止と経済成長は両立可能』 新エネ市場の急成長で達成

気候変動と経済に関する包括的な報告書が、英国で先月30日に発表され、波紋を呼んでいる。この報告書は、世界銀行の元チーフ・エコノミストで、現在は英政府気候変動・開発における経済担当政府特別顧問であるニコラス・スターン卿が、英財務大臣からの委託により取りまとめたもので、スターン・レビューと呼ばれる。

大気中における温室効果ガス濃度は、産業革命以前で280ppm(CO2換算。以下同)。現在の濃度は430ppm。なおも年間2ppmずつ上昇している。スターン・レビューは、この濃度を450〜550ppmに抑えることで、最悪の気候変動を回避することが可能であると指摘。「現時点ですでに450ppmに抑えることは、困難な上にコスト面でも割高」としながらも、今から早急に対策を講じることで、500〜550ppmのレベルに抑制することが出来るとした。

スターン・レビューは、気候変動は地球規模で進行し、水・食糧・健康・環境など人々を取り巻くあらゆる要素に影響を与え、対策を講じない場合、年間あたり世界のGDPの5%以上が失われる換算になると試算。これに対し、気候変動の防止策にかかるコストは年間あたり世界のGDPの1%前後に過ぎないと指摘し、早急な気候変動防止策の実施を訴えた。

スターン・レビューは現在の気候変動問題は、市場設計の最大の失敗であると捉えている。そして、@炭素税・排出権取引・排出規制を通して、温室効果ガスの抑制に価格をつけるA低炭素技術の開発・実施を支援するB省エネの推進および個人レベルでの気候変動に対する意識の向上――などを重要施策として提言。いずれも各国レベルで実施しても十分ではなく、国際的に連携することが重要だと強調している。そのため以下の4点がキー要素として指摘された。

@排出権取引=世界各地で実施されている排出権取引スキームを、世界中へリンク・拡大し、温室効果ガスの排出量を効果的に削減する。先進国は年間数百億ドル規模で、発展途上国への低炭素技術の移転を支援する。

A技術協力=技術開発の主役は民間部門だが、それを国際レベルで連携して行くには政府の協力が必要。

B森林開発の抑制=森林の伐採による年間あたりの温室効果ガス排出量は、運輸部門を上回り、これを抑制することで安価に高い効果を得ることが出来る。

C発展途上国への支援=気候変動の影響を最も多く受ける発展途上国は、経済政策の中に温暖化対策を織り込む必要がある。干ばつや洪水に強い農作物の開発などを援助する国際基金の設立や、ODAによる援助が欠かせない。


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