[原子力産業新聞] 2006年11月16日 第2356号 <3面>

何もしない場合数兆ドルの損失

スターン・レビューは、気候変動の防止策を講じない場合、2035年までに世界の温室効果ガス濃度は倍増し、平均気温が2度C上昇する。より長期的には、5度C以上上昇する可能性が高く、これは氷河時代から現代までの気候変動に匹敵し、世界経済は数兆ドルの損失を被る。その規模は、20世紀前半の、2度の世界大戦と大恐慌を合わせたものに匹敵する。海面上昇や干ばつなどは、世界地理を変えるだけでなく、人間の生存のあり方を変えることになると警鐘を鳴らしている。

一方、世界各国が気候変動の防止に乗り出せば、気候変動を防止できるだけでなく、低炭素技術や低炭素関連製品・サービスの市場規模が、2050年までに年間あたり5,000億ドル規模で成長し、低炭素関連の雇用規模も拡大すると結論。世界は気候変動の防止と経済発展の促進を同時に達成することが出来る、との展望を示した。

また原子力についてスターン・レビューは、「エネルギー貯蔵技術が実現するまで」との条件付ながら、温室効果ガスを排出しないベースロード電源として引き続き大きな役割を果たすとし、安全問題、放射性廃棄物、デコミ・コストなどで、各国政府がどれだけ責任を負うかがキーとなると指摘している。

スターン・レビューに対しては、「温暖化の影響を過大評価し、防止策のコストを低く見積もっている」との批判もある。しかしレビューの最大の成果は、「経済成長と環境政策は相反するものではない」ことを明確に示したことであろう。環境論者たちが唱えてきた「地球温暖化を止めるためには大きな経済的犠牲が伴い、これまでの生活スタイルを放棄しなければならない」との主張は、論拠を失ったかもしれない。


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