[原子力産業新聞] 2006年12月14日 第2360号 <4面>

2006年回顧 推進政策、安全規制、食品照射など 基本設計図作って飛躍に備え

今年は、原子力第2創生期の幕開けを前に、基本政策、安全規制、放射線利用の各面で「基本設計図」を書き上げ、官民が力を合わせて国内を固め、海外にも打って出ようと決意を固めた年であった。

【原子力立国計画の策定】

総合資源エネルギー調査会の原子力部会が8月にまとめた報告書「原子力立国計画」では、05年10月に原子力委員会が決定した原子力政策大綱の基本目標に向かって、具体的に何をすべきかを議論し、電力自由化や地球環境問題緩和に向けた新たな課題をも包含できるような“懐の深い政策”の確立をめざした。

立国計画では、原子力政策の立案に当たって、「中長期的にブレない」確固たる国家戦略と政策枠組みの確立、個々の政策や具体的時期については、国際情勢や技術の動向等に応じた「戦略的柔軟さ」を保持――など5つの基本方針を掲げている。いずれの方針も、原子力関係者だけでなく一般国民の誰もが得心する内容だろう。

経済産業省ではこの立国計画策定と同時に、「アクションプラン」をも発表している。「立国計画」を絵に書いた餅にしないために、理念を形にしていく8つの課題として取りまとめ、各具体的な施策とその実施時期を明確にした。

基本設計の次は、具体的に立国計画で言う「国が最初の第1歩」を踏み出すことだ。一般国民にも原子力産業界にも明確に伝わるような筋道を示す予算獲得を、特別会計の見直しの中でも、一工夫も二工夫もして、ぜひ実現してほしい。

【新安全規制、事業者の主体的取組みを誘導】

日本の原子力発電所の運転成績が世界の中で胸を張れるほどに良好だったのは、だいぶ以前の話で、昨今は低迷していると言わざるを得ない状況だ。

総合資源エネルギー調査会の原子力安全・保安部会「検査の在り方に関する検討会」では、9月に報告書を取りまとめ、新しい検査制度の導入に踏み切ることを打ち出した。プラント毎の保全活動を行うための保全プログラムの大幅な充実、安全確保上重要な行為に着目した検査などに事業者側が主体的に取り組み、規制行政側が監査するという仕組みだ。具体的な新検査制度の導入に必要なガイドラインや指針の検討はこれからとなるが、原子力発電所建設が主流の時代から、運転・保守の成熟した時代に入っている日本にとって、避けては通れない道だ。

一方、原子力安全委員会は5年に及ぶ審議の結果、9月に新耐震指針を決定、地震国日本の安全確保方針を明確にした。

【国内メーカーが世界戦略でグループ再編】

日本国内の電力需要の伸びが低くなり、原子力発電所の新規建設数が少なくなっている一方で、国際的には開発途上国の経済発展や地球温暖化・気候変動への強い危惧、欧米での原子力発電の再評価の流れが加速している。米国だけでなく中国、インドをはじめ世界で再び原子力市場拡大の兆しが確実になりつつある中、日本の原子力3大メーカーもそれぞれの世界戦略から、東芝・米WH社、日立・米GE社、三菱重工・仏AREVA社との協力関係を構築・強化し、布石を打った。この3グループに加え、ロシアとカナダが世界市場を巡って各国でしのぎをけずることになる。

【GNEPに参画表明、多国間管理構想】

国際的には、イランや北朝鮮の核開発について危機感が高まり、セキュリティー強化の観点から核燃料の多国間管理構想や燃料サイクルの国際共同開発の働きかけも活発になってきた。米国が国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想を提案し、各国民間の力も結集するために国際提案まで募り、当初の開発スケジュールを前倒しにするほどの熱の入れようだ。なんと言っても世界最大の原子力発電国の米国で軽水炉市場が再び活発化し、燃料サイクル政策も一度限りの使い捨て政策から高速炉開発・リサイクル路線へと、大きく政策を転換したことに意味がある。GNEP構想には日本連合も提案参加の意思を表明し、積極的な役割を果す意気込みだ。

【食品照射でも前進】

放射線利用の面では、原子力委員会が10月、食品照射、特に先ずは香辛料の検討・評価を関係省庁に対して進めることを求める決定を行った。ただ、許可が先行し、消費者に受入れられずらい事態となっては元も子もなく、原子力委員会が言うように「国民との相互理解」が何よりも大切なものとなる。

【ITER協定に7極が正式署名、国際協働プロジェクトが本格スタートへ】

国際熱核融合実験炉(ITER)の建設が確実になった年でもあった。そもそもITER計画は米ソ協調の象徴として1985年に、時のレーガン米国大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長との共同声明をきっかけとしてスタートした。その後、一部の参加国の離脱・参加、大幅な設計変更などを経て、11月には離脱が認められない協定書に7極が署名した。7極が批准して建設費約6,000億円の巨大国際共同プロジェクトが、人類の夢を実現するため、形を伴って始動する。日本の役割も重い。


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