[原子力産業新聞] 2007年1月11日 第2362号 <2面>

原子力 地方からのレポート(2) 東北原子力懇談会会長 須藤義悦氏 「中立性・双方向対話」を堅持

――東北原子力懇談会(東北原懇)は核燃料サイクル施設集積地・青森県も管轄エリアにあり、大変パワフルな組織と聞くが、特徴を聞きたい。

須藤 東北原懇は、59年に旧原産会議の関西、中部に次ぐ3番目の地方組織として発足、東北6県と新潟の7県をエリアに原子力平和利用のための普及・啓発活動を展開、今日に至っている。

この間、当エリアには21基の原子力発電所が操業、さらに3基が建設準備中。東北地方は日本の国土面積の2割のところに、原子力発電設備容量の4割強が稼働しているとともに、特に全国の原子力発電所にかかわる核燃料サイクルの集積地として重要な役割を担っている点が、他地域と異なるという強い認識を持ち臨んでいる。

また、関連事業者も東北電力、東京電力、電源開発、日本原燃、リサイクル燃料貯蔵と数多いだけに、いずれの企業・プロジェクトにかたよらないよう一定の距離を保つことが肝心。その点、東北原懇は設立以来、旧原産会議の地方組織として活動し、個別事業者からも独立した存在として、地方の方々と国、事業者・産業界との架け橋となり、地域に密着した草の根レベルの活動に取り組んできた。

――最近の活動の重点、効果はどうか。

須藤 現在、活動の重点として、「原子力施設立地地域における広報・広聴活動の強化と信頼感の醸成」など5項目を掲げているが、とりわけ、六ヶ所村の再処理工場操業開始を視野に、核燃料サイクル時代の幕を開けるプルサーマル導入、再処理工場操業に関する理解促進に最重点を置いている。

しかし、過去の事故やいまだに払拭できない不祥事によって損なわれた原子力に対する信頼感・安心感の回復はまだ万全ではない。内閣府や東北経済産業局の調査結果を見ると、原子力を肯定する割合と比べ安全性を肯定する割合は低く、特に肯定でも「積極的」の割合は半分以下になる。甘利明経済産業相の、「原子力推進の担い手の基盤はまだ脆弱」との指摘とまったく同じ思いを抱いている。

わが国の原子力の歴史は不幸にも原子爆弾の被爆で始まっただけに、平和利用への理解がここまで進むのに50年かかった。それだけに、原子力設備・機器は完全無欠を求められたが、世の中に完全無欠なものはない。われわれは、日本の国民が原子力を一般の社会事象と同じレベルで考え、対処してくれる時期に一歩でも近づけたいとの思いで頑張ってきた。原子力の理解促進に王道・近道≠ヘない。また諸情勢は常に変化し、いったん事故が起きれば振り出しに戻るだけに、たゆまず繰り返し、不断の双方向対話を継続していくことが、われわれの使命だ。

――東北原懇の中立性、独自性と原産協会との関係はどうか。

須藤 新体制となった原産協会は、原子力産業の再活性化、基盤強化に向けて政策提言等の機能を充実させている。特に、今井会長の強いリーダーシップで「安全憲章」を制定、全産業としての行動指針を示したことや、今年4月の原産年次大会の青森開催を決定するなど、矢継ぎ早の新機能発揮を評価している。

ただ、見落としてならないのは、一方的な情報発信ではなく現場の意見、要望に耳を傾ける双方向性、つまり広聴≠フ姿勢が大事なことにある。

全国的に原子力発電所の立地は地方であり、立地点あっての原子力である。そこで、原懇と協会の関係の基本は、われわれは地域密着の活動をする。地域のことは、その地域にいないと分からないことがたくさんある。一方、協会は全国的、国際的視野に立ち、地方組織へアドバイスしてほしい。これが両者の有機的関係だと考える。

現在、「高レベル放射性廃棄物の対話集会」など、協会が音頭をとった全国プロジェクトにおいても東北原懇は最も回数多く協力しており、今後とも連携できるところは積極的に協力していく。

原子力が混迷期を抜け新たな飛躍に向かおうという今こそ、われわれは、より一層地域に密着した双方向コミュニケーション(対話)活動に意を尽くしていきたい。

また、東北地域には東京電力が原子力発電所を立地、大消費地である首都圏に電気を送っているが、いわゆる電力生産地と消費地の原子力に対する認識のギャップが大きい。例えば、福島県の原子力発電所は東京電力の所有だが、われわれの地元での理解活動はそういう要素で区別することはなく、あくまで日本全体の理解のかさ上げを意図している。しかし、東京のような大都市圏における一般の原子力理解の促進については、われわれも一生懸命「産消対話」に努力しているが、同時に、原産協会や国が、より高いレベルでもっと積極的な推進策を検討してもらいたい。

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【略歴】57年北海道大学工学部機械工学科卒、東北電力入社、取締役火力部長、常務、副社長から東北発電工業社長、会長を経て、05年同相談役、東北原子力懇談会会長に就任。


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