[原子力産業新聞] 2007年2月1日 第2365号 <4面>

書評 「原子力のリスクと安全の確保」 内藤奎爾著

この書は原子力事業に関わる事業者・規制者の、現場から経営まですべての関係者の必読の書である。

安全性の向上の方法とその意味について、技術的な深層防護思想から社会との接点である防災計画に至るまで分かりやすく解説するとともに、「安全文化」の視点からJCO臨界事故など至近の事故例を深く詳細に掘り下げ、事業者・規制者双方に厳しいメッセージを発している。 全ページの3分の1を費やして「安全文化」のあるべき姿とその崩壊事例を考察し、事業者・規制者双方に「安全文化」の向上を促している。特に最終章「我が国における原子力施設の安全確保―現状と課題」は必読である。

「『安全文化』とは『よりよい安全』を目指して不断の努力をする「姿勢」であり、組織と個人のそれぞれのレベルで、安全に関わる問題に対してその重要性にふさわしい対応が、安全最優先でなされているか、を常に『自らに問いかける』姿勢に他ならない」、という現実の事例をふまえての著者の言葉はきわめて重い。

「安全文化」は現場から経営に至る原子力関係者個々人の「倫理性」の上に育つもの、また「安全」は「守るもの」ではなく「全力を尽くして攻め取る」ものである、と言外に言わんとする著者の真剣な思いがひしひしと伝わってくる書である。願わくばこの力作の意図するところを、文系・理系の別なく、現場・経営の別なく、事業者・規制者の別なく、原子力関係者にあまねく広げ、さらには一般の方々に伝えられるように、視聴覚メディア化されんことを望む。

(宅間正夫 原産協会顧問)

発行元は原子力システム研究懇話会(電話03―3506―9071)。


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