[原子力産業新聞] 2007年4月5日 第2374号 <4面>

【座談会】国際産業再編のうねり ─ 日本の国家戦略 21世紀、世界の中核を担う原子力

地球温暖化問題の深刻化と「ポスト京都議定書」への対応、およびエネルギー安全保障が国際的政治課題となり、その同時解決の切り札として原子力発電への認識が一段と高まり、7月にドイツ、来夏に日本で開かれるG8サミットの主要議題の一つとなろう。同時に、米欧での「原子力ルネサンス」が加速、またアジア地域での原子力発電導入計画が相次ぎ具体化段階を迎えたのに伴い、原子力発電所の新規建設計画が相次ぎ、市場のグローバル化と日本メーカー主導による原子力産業の国際再編が一気に浮上した。正に、21世紀を律するキーワードは「原子力」であり、原子力を制する国、企業が世界の覇者となる。こうした原子力の位置づけ、国際動向について、国、電力、メーカーの陣頭指揮をとる3人の方に参加いただき、議論した。

〈出席者〉
柳瀬 唯夫 氏 経済産業省 資源エネルギー庁原子力政策課長 (=中央)
森本 浩志 氏 電気事業連合会 原子力開発対策委員会委員長(関西電力副社長)(=右)
齊藤 莊藏 氏 日本電機工業会 原子力政策委員会委員長(日立製作所執行役専務)(=左)
 〈司会〉原子力ジャーナリスト 中 英昌

「原子力国際化時代」本番 産業と市場の変革が劇的進展

司会 本日は皆さん、大変ご多忙の中、原子力産業新聞の座談会にご出席いただきありがとうございます。

早速ですが柳瀬課長、地球環境問題をはじめ原子力がこれだけ新しい時代の切り札になっているにしては、いま一歩、原子力に対するわだかまりが抜け切れていないような気もするが、原子力の大きな流れ・見落してはならない要点をどう読み取ればいいのかという視点でお話しください。

〈原子力の前向きな流れ継続努力を〉

柳瀬 現在の地球環境問題やロシアの資源ナショナリズムの高まりから、世界中でエネルギー・セキュリティーが大変重要視されるようになった。こういう流れの中で、原子力がその中核を担わなければいけないとの認識が今、日本国内を含め世界的に一段と高まっている。そのときにわれわれが考えていることは、原子力は決して国家戦略云々といった格好いいことで進むわけではなく、歴史的に見ると、せっかく前向きな流れが出てもちょっとしたトラブル等で全部ご破算にしてしまうことの繰り返しなので、大事なことは、前向きな動きを継続的にきちんと着実に進めていくことで初めて、時間をかけて国民の皆さんに認識され、受け入れられていく、そういう性格があると思っている。

そのうえで私は今、特に二つのことが重要だと思う。一つは、国家戦略のような大きな方向性については、原子力委員会の原子力政策大綱、原子力立国計画、さらに、新・国家エネルギー戦略という一連の流れで、進むべき道筋はずいぶんはっきりした。問題は、この流れをきちんと不動のものにすることだ。そのために一番大事なことは、政府、電力業界、メーカー、それに地域が一体となって進んでいくモメンタム、流れをしっかり維持し、強化していくことにある。それには、格好いいことを言うことではなく、「一つひとつ着実に具体的な成果を上げていく」ことの積み重ねではないか。

第2は、原子力の世界でこの1年、国際的変革が劇的に進展したことだ。その一つは、原子力産業・メーカーが、つい2〜3年前には想像もつかなかったような国際的スケールで大再編が進んでいると同時に、原子力プラント市場にも大きな変化が見られることにある。世界の原子力市場ではこの20年間、原子力発電所の大規模な新規建設を継続してきたのは日本だけだが、今後はアメリカ、ヨーロッパ、インド、ロシアのいずれもが大変な勢いで新規に建設していくと予想され、産業と市場の両方が劇的に国際化していく。従来は事実上、それぞれの国が一か国で取り組んでいたものが、産業と市場双方の国際化に対応するには政策も変化せざるを得ない。その意味で、今まで原子力政策はそれぞれの国が自分の国だけで固有の政策を講じていればよかったが、今やそれではまったく機能しなくなっていると日々実感している。原子力政策も、国際的な視点・協力が不可欠だ。

そうした国際的流れのもと、甘利経産相が今年初めにワシントンを訪問した際、エネルギー省のボドマン長官と4月までに「日米原子力共同行動計画」を作成することで合意、また、昨年8月に小泉首相(当時)がカザフスタンを訪問し、ウラン共同開発などの原子力協力で合意しウラン資源外交が本格化、さらに今度、ロシアのフラトコフ首相が訪日した際には、安倍首相との首脳会談で「日ロ原子力協定」交渉開始に合意した。

こうした一連の流れは偶然ではなく、国際的な大きな政治、経済情勢を背景にしているだけに、まず国内の体制をしっかり固めること、および国際的にも緊密な協力関係を構築していく、この二つが、今の流れを前向きに発展させていくことになろう。その延長線・実績の上に、G8サミットのような大きな場で、トップレベルの強いコミットメントを出していくことにつながっていくと思っている。

司会 国内的にはこれまで、各省庁間で原子力推進に対する認識にかなり濃淡があったが、最近は、安倍首相も原子力資源外交や地球温暖化防止対策を国家戦略に位置づけ力点を置くなど、官邸レベルでも一致結束して原子力を重視、国際的なリーダーシップをとろうという積極的な対応が目立つ。

〈エネ基本計画改定を閣議決定〉

柳瀬 その流れは間違いなく出ている。今度の予算委員会でも、安倍首相は「エネルギーの安定供給と地球環境のために原子力が重要である」と明言されている。今回、エネルギー基本計画の改定を3月9日に閣議決定したが、それにも、前半はほとんど“原子力だらけ”と言えるぐらい、圧倒的に原子力を中心にした基本計画もできた。また、数年前に京都議定書の目標達成について閣議決定した際にも、原子力推進をうたっている。それだけに、政府はこの数年、ずっと原子力推進で一致しているはずだ。政府の基本方針ははっきりしていて、むしろ、具体策がここ1〜2年で急激にとられるようになったと考える。

司会 ただ、例えば地球温暖化防止がこれだけ国際的課題となり、原子力発電の貢献が認識されながら、その対応策として真っ先に原子力発電の存在が強調されてしかるべきところ、新聞等の報道で見る限り、後のほうに「原子力もある」といった付けたりのように感じ、やはり「もう一歩かな」と思われるがどうか。

柳瀬 それは、新・国家エネルギー戦略の記載順番が、原子力は後ろにあり省エネが先にあるため、みんなそう言っているだけではないか。書いてある順番に意味があるとはまったく思わないが、そういう懸念を持つ向きもあることを考慮して、今回、閣議決定したエネルギー基本計画の改定版では、最初に原子力を持ってきて、かつボリューム的にも圧倒的割合を占めている。いわば、原子力立国計画をそのまま取り込んだような形で、政府の立場を明確にした。

司会 来年、日本で開催予定のG8サミットに向け、原子力の重み、重要性がさらに高まっていくのではないか。課題は何か。

柳瀬 そう思う。ポイントは、ドイツなど「原子力推進」とまだ政府として言えない国があり、G8のコミュニケは“コンセンサス方式”なので、どこまで原子力に前向きなメッセージを出せるかにある。


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